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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第1章 夏の華
「来週は旦那様の帰国記念の夜会だね」
狭霧は荷物の点検を終え、階下の月城の執務室で春が入れた熱いダージリンを口に運ぶ。
「はい。…旦那様のご帰国は約一年ぶりですので、いつもより大掛かりな夜会を催すつもりです。
来賓の方々もいつになく大勢になりましたので、舞踏室も模様替えしました。華やかな舞踏会にもなりますね」
お代わりのダージリンをポットから注ぎながら説明する月城の手に、狭霧は手を重ねた。
「…ねえ、月城くんの恋人、来週の夜会に来るの?」
狭霧の瞳が好奇心にきらきら輝いている。
「え?」
いきなりの質問に、不意を突かれる月城に狭霧はくすくす笑う。
「当ててみようか?…月城くんの恋人は…多分、身分の高い人だな。…歳下で…とても綺麗な人。…馬にも乗る人。そして…割と最近、始まった恋。…それから…あの麻布十番の家のそばに住んでいる。…どう?当たった?」
月城は絶句したまま声も出ない。
狭霧は可笑しそうに笑った。
「…やっぱりね。…もしかして、縣様の弟君?」
思わず小さく叫ぶ。
「な、なぜそれを⁈」
言ってから慌てて口を塞ぐ。
「図星か。…いや、半分は勘。半分はカマをかけたのさ」
「狭霧さん!」
狭霧は手を挙げて月城を宥めるように説明する。
「さっき春さんにちらっと聞いたんだ。月城くんは最近、休日には必ず自宅に帰るし、とてもまめに乗馬クラブに通っているとね。…それから、来週の夜会をどうも楽しみにしているらしいと。…そこから想像するに、月城くんの恋人は、夜会に招待されている人、馬に乗る人、自宅そばに住んでいる人…というのが思い浮かんだのさ」
月城はため息を吐いた。
「探偵みたいですね、狭霧さんは…」
狭霧は微笑んだ。
「それだけじゃないさ。…私は遠い昔、縣様の弟君が初めてお茶会に招待されて、馴染めなくて1人でいるところに君がさり気なく声をかけて、温室に連れ出した光景が強烈に胸に残っていてね。…あれは…本当に美しい光景だった…」
「…狭霧さん…」
「…あの時の君たちが思い浮かんで、もしかしたら…と思ったんだよ」

かつて月城に恋の手解きをした男は、優しい兄のような眼差しで尋ねた。
「愛しているの?その人を…」
月城は狭霧の眼を見てはっきりと答えた。
「はい。愛しております。誰よりも…」
「…良かった…。君のこんな貌を見たのは初めてだ」
狭霧は艶めいた眼差しでまた笑ったのだ。

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