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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第1章 夏の華
たじろぐ月城に、大紋は大人の余裕のある笑みを浮かべる。
「…もちろん君から暁を奪う気はない。けれど、僕は今でも暁を愛している。…愛している人は暁だけだ…これからもずっと…」
「…大紋様…」
大紋は、諦観と慈愛と寂寥と全てが合わさったような不思議な表情で語り出した。
「…僕は妻も子どもも大切にしている。絢子は良き妻で良き母親だ。…子どもはとても可愛い。この家庭を大切に守り続けるつもりだ。…けれど、暁を想う気持ちは別だ。
僕は、暁を愛している。その気持ちは以前と少しも変わってはいない。…一度は何もかも捨てて、彼と世界の果てまで逃げ去りたかった。…だが、できなかった。
…それは僕らの運命だったのだろう。もう彼とよりを戻したいとは思わない。…けれど…」
…僕は暁を愛している…。
と、はっきりと月城の目を見つめて男は告げた。
「…だから…」
「うん?」
「…だから、お子様に暁様のお名前をお付けになったのですか…?」
…子どもの名は暁人だ。君の名前をもらった…。
そう大紋は暁に言った。
その行為に月城は、男の暁に対する忘れ去ることができない強い執着と切ない想いを感じたのだ。
大紋は済まなそうに笑った。
「…そうさ。…ごめんね。…でも、名前を貰うくらいいいだろう?…どうしても暁の名前を付けたかったんだ…」
…今もまだ愛しているというかつての恋人の名前を子どもに名付ける男…。
大紋の暁への愛はそれほどに深いものなのだろう。
…人の心は分からない。
その秘めたる心までは…。

ふと月城は、大紋に尋ねた。
ずっと気になっていたことを、彼ならば聞いてみようと思ったのだ。
「…大紋様、8月15日に何かあるのですか?」
「8月15日…?」
大紋が怪訝そうな貌で月城を見た。
「…はい。8月15日は休めるのかと暁様に聞かれました。
…生憎、旦那様のお供で宮中に参拝しなくてはならないのですが…」
大紋は、直ぐに合点がいったように頷き、さらりと答えた。
「…8月15日は大川の花火大会だ」
「大川の花火大会?」
大紋はしみじみと懐かしむような眼差しをする。
「…暁が見たがっていたんだ。…昔、暁の亡くなった母親が新しい浴衣を着させてくれて、一緒に花火を見たそうだ。帰りに屋台で水飴を買ってもらったらしい。…暁の子ども時代の楽しい思い出は、それだけだそうだ」
…暁様…!
月城の胸が激しく痛んだ。


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