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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第8章 真夜中のお茶をご一緒に
「お待たせいたしました。司様」
部屋着に着替えた司がテーブルに着くと間も無く、泉が運んで来たのは三段重ねの重箱と、黒塗りの椀であった。
「お重はお節料理、お椀の方はお雑煮です」
「おぞうに?…なに?それ…」
幼い頃にフランスに渡った司には日本の正月の記憶はない。
パリに住み始めてからは、父 忍の教育方針から日本食は一切食卓に登らなかった。
フランスに移り住んだからには司にはフランスに馴染む子どもに育って欲しい…郷に入っては郷に従え…だ。
そう百合子にも言い渡し、敢えて日本食に触れさせなかった。
…最も、フランスでは日本食の材料など手にははいらなかったが…。

泉は椀の蓋を開けて見せながら説明する。
「…お雑煮はお正月に食べる代表的なお料理です。住む地方や家庭によって中身や味付けが違うのもお雑煮ならではなのですよ」
…湯気が立った澄まし汁は出汁の良い香りがした。
司は子どものように目を輝かせて中身を見つめる。
「何が入っているの?」
「魚の鰤にかつお菜というお野菜、それから椎茸、人参、蒲鉾です。…旦那様のお爺様は福岡のご出身ですので、お雑煮も九州風なのです。お餅は煮たものがお爺様がお好きだったそうで、煮餅になっています。鰤は出世魚と言って縁起が良いのですよ」
「…へえ…。これ、泉が作ったの?」
「はい。時々趣味で料理をするのです。これは料理長に教わりました。お節料理は料理長が昨日急遽拵えて届けてくれました」
きっと泉が休暇中の料理長に掛け合ってくれたのだろう。
重箱の中は見事な鯛の塩焼き、蒲鉾や伊達巻、昆布巻き、なます、数の子、栗きんとんなど純日本式のお節料理に混じって、鴨ロースやローストビーフ、色鮮やかな野菜のピクルスなどが綺麗に詰められていた。
外国育ちの司の為に、泉が注文してくれたに違いない。
司の胸は温かい気持ちでひたひたと満たされてゆく。
「…ありがとう…泉…」
少しはにかみながら礼を言うと、泉は優しく笑った。
「さあ、温かい内にお召し上がりください」
「泉は?一緒に食べようよ」
泉が戸惑ったように、しかしきっぱりと答える。
「使用人がご主人様とご一緒のテーブルに着く訳にはまいりません」
「いいじゃない。今はこの屋敷には僕と君しかいないんだよ?」
「…しかし…」
「一人で食べるのは寂しいんだよ。…一緒に食べて?」
薄茶色の瞳が泉をじっと見上げる。


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