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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第8章 真夜中のお茶をご一緒に
司の懇願に折れた泉は、司とともにテーブルに着いてくれた。
「生田さんには内緒ですよ?」
苦笑する泉に、司は嬉しそうに頷く。
「うん!分かってる」

二人で雑煮を食べ、お節をつつく。
泉が作った雑煮はとても美味しかった。

司は矢継ぎ早に尋ねる。
「ねえ、泉の故郷はどこ?お雑煮はどんなの?」
…泉のことを色々知りたい。
「私の故郷は、能登の先の貧しい漁師町です。…お雑煮など、兄が東京に働きに出るまでは食べたことがありませんでした」
「…そう…なんだ…」
聞いてはいけないことを聞いてしまったのかな…と、済まなそうな貌をする司に、泉は屈託無く笑いかける。
「ですから、兄が仕送りをしてくれて、初めてお雑煮を食べた時の嬉しさは今でも忘れられません。
…能登で取れた大きな海老が入ったお雑煮です」
…あれは美味かったなあ…と目を細める泉がなんだかとても可愛らしく見えて、司の心はじんわりと温かくなる。

「海老のお雑煮かあ…。色んなお雑煮があるんだね」
「日本は南北に長い地形ですし、地方によって特産物も違いますからね。その土地土地の美味しいものがお雑煮に入っているんですよ」
暫く日本の食文化の話に花が咲いたのち、ふと司が尋ねた。
「ねえ、泉は東京に出て来てからはずっとこちらに勤めているの?」
泉は淡々と答える。
「いいえ。縣様のお屋敷にお世話になるまで二度勤め先を変わっています」
「へえ…。どうして?」
泉が一瞬の間ののち、ふっと柔らかく微笑んだ。
「…最初の勤め先のご令嬢と、駆け落ちして解雇されたからです」
「え⁈か、駆け落ち⁈」
司は思わず餅を喉に詰まらせそうになった。
慌ててグラスの水を飲みながら、急いたように尋ねる。
「どうして駆け落ちなんかしたの?その人と結婚したくて?」
…本当は駆け落ちの事実より、泉に愛する人がいたことの方がショックだった。
自分でも驚くほど動揺してしまう。

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