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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第10章 初月の夜も貴方と
暁は静かに階下に降りた。
階段傍の窓からはさらさらと降り積もる雪が見える。
…まだまだ積もりそうだな…。
暁は子どものように弾む気持ちで微笑んだ。

キッチンへ入り、エプロンを着ける。
家政婦のいとは三が日は休みを取らせていた。
檜の卓にはいとが用意してくれた心尽しのお節の漆塗りの重箱がきちんと置かれていた。
大皿には見事な明石の鯛の塩焼きが飾られ、正月らしさを醸し出している。
傍には朱色の美しい蒔絵の漆器が並び、お屠蘇の準備もされていた。

「月城に故郷のお雑煮を作ってあげたいんだ。作り方を教えて」
そう頼みこんだ時、いとは目を丸くし…しかしすぐに優しく微笑んだ。
「能登のお雑煮ですね。…北陸の友人がおりますので、聞いてまいりますね」

何かの拍子に月城と正月の雑煮の話をしたことがあった。
貧しい幼少時代を過ごした暁は、礼也に引き取られた縣家で生まれて初めて雑煮を食べた。
「縣の家は万事西洋風でしょう?元旦だけはお雑煮やお節や…和食が並ぶんだ。
僕はお雑煮を食べたことがなかったから、感動したなあ…。塩鰤とかつお菜という鰹節の風味がする青菜が入っているんだ。福岡の味らしい」
「礼也様のお祖父様のお里のお雑煮ですね」
月城も興味深げに頷く。
「うん。お祖父様もずっと貧しい少年時代で、お雑煮も満足に食べられなかったから、成功してからもお雑煮だけは郷土の味を作らせていたんだって。
だから元旦だけは日本料理のお節が並ぶんだ」

ほぼ毎日西洋料理の縣家に慣れるのは時間がかかった。
礼也はとても優しかったけれど殊、テーブルマナーに関しては厳しかった。
暁が間違ったことや美しくない所作をした時は何度もやり直しをさせた。
礼也もその都度食事を止め、お手本を見せ特訓をした。

それは妾腹の暁が将来社交界にデビューした時に、皆から後ろ指を指されないようにとの礼也の親心だった。
その愛情が分かっていた暁は、礼也の厳しい指導は少しも辛いとは思わなかった。
早く兄さんを安心させるような立ち居振る舞いをしたい…。
その一心で必死でマナーを身につけた。
だから、箸を使う和食は暁がほっとできる瞬間でもあった。
生まれて初めて食べる豪華なお節に郷土愛溢れる雑煮…。
普段忙しい礼也も元旦は一日中暁の側にいてくれる。
大好きな兄と食べるお雑煮とお節…。
…暁にとって元旦は、最も幸せな時間だったのだ。

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