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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
お茶会は和やかに楽しく進んだ。
出席者は縣家からは礼也と妻の光、薫と菫。そして暁。
…司も招待されたのだが生憎、ゼミの食事会が入っていたのだ。
他には麻宮侯爵夫妻に京都の公家に嫁入りした翠、翠の一人息子の國彦だ。
丁度神谷町の麻宮家に國彦を連れ里帰りしていたので、一緒に茶会に招かれたのだった。

近年病的な人見知りが軽減した梨央はある程度の人数なら…かなり親しい人々に限られるが…一堂に介して共に過ごせるようになったのだ。

麻宮侯爵夫人は梨央の亡くなった母親の姉だし、光の妹の翠は明るい性格をしているので梨央が気にせずに過ごせる貴重な友人であった。
かつては気難し屋な印象があった麻宮公爵だが、孫が出来てからは人が変わったかのような好々爺になったのだ。
今も菫を椅子から抱き上げ、自分の膝に乗せている。
「菫ちゃんはタルトタタンは好きかな?」
「すき!すみれ、りんごがだいすきなの!」
「そうか。よしよし。おじいちゃまが食べさせてあげよう」
礼也と光の母はその様子を見ながら和やかに微笑みあう。

「…お父様はすっかり孫べったりのじいじよ。特に菫が可愛くて仕方ないみたい」
光は白く美しい手でミントンの茶器を取り上げながら、肩を竦めて梨央に囁いた。
「菫ちゃんは本当に可愛らしいもの。…光お姉様にそっくりだし、叔父様が溺愛されるのも解るわ。
…ねえ、暁さん」
梨央は美しい眼を細め、暁に同意を求める。
暁は三十路を越えても奇跡のように麗しく…少女のような清らかさが些かも失われていない梨央の美貌に見惚れながら答える。
「ええ。菫は義姉さんによく似ています。…義姉さんが小さな頃は菫のように愛らしかったんでしょうね」
隣りの翠が澄まし顔で首を振る。
「お貌は綺麗だけど、とにかくいじわるだわ乱暴だわ…。私なんか毎日のように泣かされていたんだから」
光は美しいアーチ型の眉を顰める。
「人聞きの悪いこと言わないでよ。貴方が愚図だから発破をかけただけだわ」
「お姉様が優しいのは梨央様だけ。他の人はみんな大なり小なりいじわるされていたのよ」
綾香は明るく笑い、梨央の頬に触れる。
「光さんの天使のお心は梨央にだけ向けられていたのね。ありがたいこと…」
「…お姉様…」
ミルクのような肌が薄桃色に染まる。

…二人の相変わらず仲睦まじく美しい姉妹愛ぶりに、テーブルからは思わずため息が漏れる。



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