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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
「暁様!こんにちは!来てくれたんですね!」
暁が教会に足を踏み入れた途端、奥から1人の少年が目を輝かせながら駆け寄ってきた。
教会の裏手の孤児院に住む仁と呼ばれる少年だ。
「久しぶり、仁くん。…忙しくてなかなかこられなくてごめんね」
暁は無邪気に抱きついてきた愛らしい少年を笑顔で抱きとめる。
「ううん!暁様はお忙しい方なのに、こうして炊き出しに来てくださって…本当にありがたいってシスターが…」
「今日は何を炊き出しするの?」
「クリームシチューとピロシキとビスケットです。
シチューとピロシキの材料はビストロアガタの方が、ビスケットは縣商会の方が昨夜たくさん届けに来てくれました。おまけに僕たちにキャンディも…!」
瞳をきらきら輝かせて報告する仁に暁は思わず微笑んだ。
「そう。それは良かった」

暁は三年前から浅草の浅草寺にほど近いこの小さな教会で炊き出しを手伝っている。
材料はビストロアガタで使用する新鮮な食材や、縣商会が取り扱う豊富な輸入食材や調味料だ。
元々は同じ浅草出身の北白川綾香が、浅草に暮らす窮困した人々を何とか救えないものかと心を痛めていて、慈善コンサートのサポートを暁が買って出たのがきっかけだ。

暁は好評を博した綾香のコンサートや、更には社交界の中でも慈善事業に関心の高い夫人達に呼びかけバザーを定例化した。
また、縣商会の協力を得て、綾香と縁があったこの教会で貧しい人々への炊き出しも企画し、自ら手伝うようになったのだ。
教会には親を亡くした子どもたちが暮らす孤児院があり、コンサートやバザーの収益金の一部は彼らの進学の費用に充てられる。

子どもの頃、貧しくて学校に通うこともままならなかった暁は、いつか自分と同じような境遇の子どもたちを助けたいという密かな夢があった。
それが綾香の願いと合致し、慈善コンサートや慈善バザー、教会での炊き出しは無事に軌道に乗った。
今では教会関係者や縣商会の社員以外でも大学生や市井の人々が手伝ってくれるまでに、認知が広がって来たのだ。
「暁様!早く早く!もうすぐ炊き出しの配給が始まりますから、一緒に来てください!みんなも暁様に会えるのを楽しみにしているんですよ!」
仁に手を引っ張られ、暁は思わず破顔する。
「はいはい。そんなに引っ張らなくても大丈夫だよ」
暁は仁と共に、古びた教会の礼拝堂の中へと入っていった。

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