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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
翌朝の朝食は庭に面した窓を開け放ったサンルームで摂った。
今日は月城は午後から出勤すれば良いのでゆっくりと暁と朝食を摂ることができたからだ。
麗らかな春の爽やかな朝風が頬を撫でる。
月城が丹精込めて育てている春先の薫り高い薔薇が咲き始めているのだ。
クリスタルの花器には白薔薇が一輪、活けられている。
…月城の心遣いが嬉しい。
薫りを吸い込むと、柔らかな薔薇の香気が胸に広がる。
幸せな気持ちも同時にじわじわと満ちてくる。

月城が糊の効いたワイシャツの腕を無造作に捲り上げ、麻のエプロンを付け、焼きたてのクロワッサンや玉子料理の皿を運んでくる姿に思わずうっとりと眼を奪われる。

…月城は本当に綺麗だな…。
まだ出勤には間があるので、髪を固めずにさらりと流していて、前髪が額に落ちているのも年より更に若々しく見える。
貌立ちは出会った頃と少しも変わってはいない。
氷の彫像のように端正で近寄りがたいほどに美しいが、その心はとても優しい…。
じっと見つめていると眼が合い、暁は慌てて眼を逸らす。
そんな暁を可笑しそうに笑い、真っ白なテーブルクロスの上に皿を置く。
「烏骨鶏の卵です。栄養がありますよ。それからギドニービーンズも…。あまりお好きではないでしょうが、鉄分が豊富なので召し上がってください」
不思議な貌をする暁の頬を軽く抓る。
「…少し痩せられましたよ。最近お仕事がお忙しくて、あまりお召し上がりなっていないでしょう?昨日も、お休みなのにお出かけになられていましたね」
月城は暁の行動は全て把握しているのだ。
暁の隣の椅子に腰掛け、頰杖をついて貌を覗き込む。
その何気ない男の色香を醸し出す仕草にどきりとする。

「どちらにお出かけになっていらしたのですか?」
一瞬、藍染の貌が浮かび…ややぎこちなくフォークを取り上げると、淡々と答えた。
「浅草の教会だ。…炊き出しの日だったから…」
…ああ…と月城は眼鏡の奥の瞳を細めた。
「そうでしたね。…ご一緒に伺えなくて申し訳ありませんでした。…子ども達は元気でしたか?」
孤児院の子ども達のことは、月城も気に掛けていてくれるのだ。
「うん。…みんなまた大きくなっていたよ。仁くんなんて背がすごく伸びていた」
「彼ももう中学卒業の年でしたね…」
月城が優し気に笑う。
性格が良くて賢い美少年の仁は月城もお気に入りなのだ。

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