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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
「炊き出しはいかがでしたか?最近、大盛況ですから手が足りなかったのではないですか?」
再び、藍染の面影と言葉が胸をよぎった。
…僕と会ったことは月城さんには内緒にしてください…。
「…うん。大丈夫だったよ。孤児院の子ども達も皆よく働いてくれたから…」
…言ってしまい、結果月城に嘘を吐いたことが暁の心に何とは無しに後ろめたい影を落とした。
「…それで?何を気にかけておられるのですか?」
はっと月城を見上げると、思わぬ近さでじっと見つめる怜悧な眼差しと眼が合う。
「…なんでもないよ…」
「私に何かお聞きになりたいことがあるのではないのですか?」
月城は暁の心の揺れ動きにとても敏感だ。
やや神経症めいたところがある暁をいつも冷静に穏やかに受け止めてくれる。
暁が激しく月城を求める時は、必ず心の澱があることを見抜いているのだ。

暁は自分が恥ずかしくなる。
…月城の真意を疑うようなことを少しでも思ってしまって…。
こんなにも自分を大切にしてくれている月城が、二人の関係を隠そうとするはずがないのに…。

だから暁は素直に笑みを浮かべる。
「何でもない。大丈夫だから、心配しないで」
「…本当ですか?」
「うん。もう大丈夫。解決したから心配いらない」
一度言うと決して翻さない暁の意外な頑固さを知っている月城は暫くじっと見つめていたが、やがて穏やかに微笑んだ。
「…分かりました。もう伺いません。…けれど、もしまた何かお聞きになりたいことが出来たら、ご遠慮なく仰って下さい」
月城の誠実な優しさが身に染みる。
「うん。ありがとう」
暁は月城の手に手を重ねる。
ひんやりと冷たい美しい手…。
暁の大好きな手だ。
その手を自分の頬に当てる。
「…月城…。大好きだよ…君だけだ…」
月城の手が暁の頬を包み込み、そのまま貌を引き寄せられる。
「…愛しています…」
優しく囁かれ、甘い口づけで封印される。
…目眩がするほどの幸福感の中で、暁は男の背中を強く抱きしめる。
…月城がいれば、他には何もいらない…。
もう何千回思ったか分からない言葉を心の中で呟く。

唇をゆっくりと離した月城が睫毛が触れ合う距離で微笑む。
「…朝食が…冷めてしまいますね…」
暁は月城の額に額を付け、羞らいながら笑った。
「…うん…。食べよう…」
…けれど、二人の甘い口づけはいつまでも終わることはなかった。

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