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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
梨央さんは…なんて美しいのだろう…。
暁は衝撃のあまり、却ってしんと冷えた頭で二人を冷静に見つめる。

何度も口づけを受ける梨央の唇が次第に本来の朱みを取り戻し始めていた。
…蒼ざめた花のようだった頬には、薔薇色の生気が戻り始める。
浅く苦しげだった呼吸が穏やかに規則的に整い始めた。
…さながら、王子のキスで目覚める眠り姫のように…。

「…つき…しろ…」
梨央の掠れた声が、月城を呼ぶ。
…僕のものなのに…
月城は…僕のものなのに…!

「お気がつかれましたか⁈…良かった…」
月城が安堵のあまり、笑顔になる。
…優しい…とても優しい…暁の大好きな笑顔だ。
長い睫毛を震わせ、梨央がゆっくりと瞼を開ける。
…二人は吐息が触れ合うような距離で見つめ合う。
梨央は呼吸が出来た安心感からか、月城の胸に貌を埋め、再び瞼を閉じた。

そんな梨央をまるで宝物を扱うかのように、そっと抱きかかえたまま立ち上がる。
「…このまま、車でお運びします」
介添えする侍女に言いしなに振り返り、月城は金縛りにあったかのように動きを止めた。

…開け放たれた扉の向こうに暁が佇み、月城を見つめていたのだ。
「…暁様…」

暁の例えようもない哀しみに満ちた眼差しを受け止め、月城もまた言葉を失くす。
…弁解も説明も出来ずに、立ち尽くす。

廊下から慌ただしくメイドが駆け寄ってきた。
「月城さん!車の用意ができました」
暁が邪魔にならないようにそっと扉の脇に身を引く。
その動作に胸を痛めながら、梨央を抱いたまま暁の前に進む。
「…梨央様のご容態が落ち着いたら、直ぐに帰宅します。
待っていて下さい。…ゆっくり話しましょう」
暁は黙って頷いた。
…月城の貌を見ようとはしなかった。
月城は黙礼すると、後ろ髪を引かれる思いを振り切るかのように暁の前から去って行った。

…なぜ、彼は僕ではない他の女性を抱いているのか…。
暁の愛する美しい男がすらりとした背中を見せながら、階段を降りて行くのを瞬きもせずに見つめる。
細身だが美しい筋肉に覆われた腕が、お伽話の姫君のように可憐な女主人を抱いている…。

…「月城さんと梨央様は抱き合っていらっしゃいました…まるで恋人のように…」
藍染の言葉が耳に蘇る。

…あれは…嘘ではなかったのか?
湧き上がる猜疑心と闘いながら、暁はその場に立ち尽すのだった。






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