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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
「月城さん、申し訳ありません!」
副執事の早月が小さくなってひたすらに頭を下げるのを月城は優しく制する。
「そんなに恐縮しないで下さい。
それより、早く行きなさい。今ならまだ汽車に間に合うでしょう。駅まで車を使いなさい。運転手の岡田さんには言っておきました」
「すみません!ありがとうございます!」
早月は尚も何度も頭を下げながら、慌ただしく玄関を出た。

副執事の早月の田舎の母親が急病に倒れたと電報があったのが夕刻過ぎのことだった。
月城はまさに今から早月と執務を代わってもらい、ようやく帰宅の途に着こうか…としていた矢先の出来事であった。

「いいです。僕は様子を見てみます。月城さんはご自宅に帰られてください。もう二週間以上もお帰りになっていない…」
必死で笑顔を作ろうとする早月の肩を叩き、月城は今すぐ帰省する支度をするように命じたのだった。

「私のことは気にしないで下さい。…早く支度をして、お母さんに会って安心させてあげなさい」
そう言って近寄りがたいほどに端正な貌に優しい微笑みを浮かべたのだった。

去って行く車を見送りながら、月城は小さく溜息を吐いた。
…あの日からもう一週間経つのに、まだ暁様のお顔を見てはいない…。

梨央がようやく退院出来たのは昨日のことだった。
大丈夫と言い張る梨央を様々な検査をさせ、病院に留めさせたのは神戸にいる綾香の指示だった。
梨央を溺愛する綾香は、梨央の健康には誰よりも神経質だったのだ。
梨央の退院までは殆ど病院に詰め、屋敷に帰宅してからは、不在だった期間に溜まっていた仕事や用件、使用人たちからの申し送りを聞き…正に不眠不休に近い多忙さだったのだ。

それでも一度、暁の家に電話を入れたのだが、折悪く暁は不在であった。
家政婦のいとに暫く帰宅できない旨の伝言だけを残したのだが、さすがに暁の様子が気になり、今夜こそは帰宅しようと思っていたのだ。
…だが…。
今夜も暁様にお会いできないのか…。

仕事なのだから仕方ないとはいえ、最後に見た暁の驚きと哀しげな眼差しが忘れられない。
早くお会いして、暁様のお話を聞いて差し上げたい。

けれど、暁の会社にまで電話して暁の立場を悪くするのは避けたかった。

…明日、夜中でもいいから、帰宅して暁様に会いに行こう。
そう心を決め、階下に降りようと扉を開け…月城はふと脚を止めた。

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