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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第13章 永遠の最果て
大紋は端正な貌を引き締め、暁の部屋の扉を叩く。
…返事はない。
「入るよ、暁」
メイドが取り次ぎの際に言った通り、広い暁の部屋に本人の姿はなかった。

かつて大紋も幾度となく訪れた暁の部屋はきちんと冷たいくらいに片付き、その主人の面影や温かみは一切感じられなかった。
…暁のあえかな花のような薫りも感じられない。

「…もう数日も前からお帰りになっていないわ」
美しいが不安を秘めた声が大紋の背後から響いた。
振り返る先には、琥珀色のイブニングドレス姿の光が佇んでいた。
「光さん…」
その輝くばかりの美貌は濃い気遣わしげな色に曇っていた。
「礼也さんが探し当てて、その都度連れ戻すけれど駄目…。すぐに居なくなっておしまいになるの。
死ぬほど心配された礼也さんが、下僕の監視まで置くようになってしまって…。
そうしたら暁さんが…今は放っておいてくれ、と…。
その代わり行き先は必ず伝えるから…て。
それで礼也さんは仕方なく譲歩されて、今は暁さんのしたいようにされているわ…。
…暁さんのお気持ちを思うと、無理からぬことだけれど…。このままでは暁さんの心と身体が心配なの…」
「…そうですか…」
大紋は深いため息を吐いた。


月城が突然、暁の前から姿を消してもう一ヶ月になる。
北白川伯爵家の月城の執務室の机の中からは、北白川伯爵と梨央と綾香に宛てた辞表がそれぞれ残されていた。

後任となる副執事の早月への事細かな指示は便箋数枚に渡りしたためられていたが、理由には一切触れてはいなかった。

月城が屋敷を去った翌日には多数の憲兵隊による有無を言わさぬ家宅捜索が行われた。
彼らは階下の使用人住居は勿論、階上の主人達の居室も余すところなく荒っぽく手を掛けていった。
梨央は酷く怯え綾香が気丈に庇い、隻眼の憲兵隊将校に立ち向かった。
「貴方たち、何の権限があってこんなことを⁈
月城が何をしたというの⁈」
隻眼の黒いアイパッチをした若い男は、その薄い唇を歪めて笑った。
「そんなものは俺たちには必要ないのですよ、お綺麗なマダム。
月城森は反政府運動の首謀者の片腕だ。
奴は首相暗殺も企てている。その証拠が上がるまで、お邪魔させていただきますよ」

…証拠となるものは、何一つ上がらなかった。
隻眼の将校は忌々しげに舌打ちしながら荒らし回った部屋を踏みにじるように屋敷を後にした。


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