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第13章 永遠の最果て

隻眼の将校…鬼塚少佐達は麻布十番の月城の自宅も家宅捜索をした。
月城の部屋に土足で上がり込もうとした憲兵隊の前に暁が立ちはだかる。
「ここは私達の家だ。汚い手で触れるな。出て行け」
血気盛んな若い兵士はカッとなるなり、暁に詰め寄る。
「何だと？貴様、誰に向かって口を聞いとるんだ？貴様の部屋も…いや、貴様の身体も身ぐるみ剥がして奴の反逆の証拠を探しても良いのだぞ⁈」
兵士らの間から下卑た嗤いが起こった。
「…見れば綺麗な男だ…。こいつの身体に聞いてみるのも良いかも知れんな。
…何しろこいつはあの月城の恋人だそうだ。
奴の秘密も承知しているのに違いない。
…こいつから口を割らせるのも一興だ」

兵士が欲情でギラつく眼差しで暁を注視し、その顎に手を掛けようとした時、冷ややかだが、鋭い声が飛んだ。
「手を離せ。その男は俺の獲物だ。
今後、貴様らが手を触れることは一切許さない。いいな？」
兵士は慌てて、暁を突き放す。
「は、はい！少佐殿！」
緊張する兵士らに、鬼塚は顎をしゃくる。
「お前らは部屋を捜索しろ。どんな些細な証拠でもいい。必ず奴の尻尾を掴むのだ」
鬼塚の命令に、兵士らは敬礼すると、蜘蛛の子を散らすように、月城の家の中に押し入っていった。
止めようとする暁の腕を鬼塚が掴む。
怒りに満ちた眼差しで睨みつける。
「離せ、僕に触るな」
鬼塚は少しも機嫌を損ねることなく、寧ろ愉快そうに笑った。
「美人が怒る様は一層美しい。…少しは俺に感謝したらどうだ？兵士らは連日の激務で苛ついている。しかも野犬並みの荒くれ者ばかりだ。
俺が今止めなくてはあんたは奴らの餌食になってぼろぼろになるまで犯されていたぞ」
暁は蒼ざめた貌のまま、鬼塚を突き飛ばす。
「誰がお前なんかに感謝するものか。
…月城を危険分子扱いして汚名を着せ、北白川家を家宅捜索するなど、言語道断だ！
月城は清く正しい忠誠心の厚い完璧な執事だ！
彼が主君の北白川伯爵を裏切るような真似をする訳がない！」
月城が今まで築き上げてきた執事の経歴やプライドを全て台無しにしたこの目の前の男が許せなかった。
この男のせいで、月城は失踪したのだ。
許せない…許せない！
睨みつける暁に鬼塚は冷笑を浮かべた。
「俺が憎いか。…あんたに憎まれているかと思うと、ゾクゾクするほど気持ちがいいね…」
黒手袋の手が、暁の白く艶やかな頬を撫でる。