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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第13章 永遠の最果て
浅草のカフェに暁は久々に足を運んだ。
…ずっと自分のことにかまけていて…すっかりおざなりになってしまっていたな…。
この店は最近、若手の店長に変わったばかりであった。
…不安だっただろうに…可哀想なことをした…。
暁は開店前の店のカウンターに帳簿を広げ、内容を確認する。

珈琲豆の輸入にも制限がかかり始め、その値段は驚くほどに高騰している。
そんな昨今、値上げせずに店を続けているので、事実上赤字経営だった。
…だが、庶民の為に始めた店だ…。
簡単には値上げしたくはない…。
市井の人々が財布を気にせず、珈琲を楽しんだり、ホットケーキやアイスクリームを味わう…。
そんな店にしたかったのだ…。
しかしそれら嗜好品は贅沢品とみなされ、高い税金もかかるようになってきた。
街のカフェやビストロも次々と店を閉めだしている。
世間の風潮が節約、節制が美徳とされ始めているのだ。

暁はため息を吐いた。
…日本はこのまま、戦争へと突き進んで行くのだろうか…。
月城は…
もし戻っても、徴兵に取られるかも知れない…。
一度、特高や憲兵に睨まれたものは、過酷な前線に敢えて送られると聞く…。
暁の胸は張り裂けそうな不安からの痛みに襲われる。

…と、その時、乱暴な仕草で店の扉が開かれ、カウベルがけたたましく鳴った。
暁は貌を上げ、息を呑んだ。
「…貴方は…!」
逆光を背に立つ黒い細身の軍服姿の長身の若い男…。
「俺はいつもあんたにとって、招かれざる客のようだな…」
片頬だけで冷たく笑う隻眼の将校…鬼塚徹であった。

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