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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第13章 永遠の最果て
鬼塚少佐は表情を硬くする暁にゆっくりと近づく。
黒革の軍靴ブーツがカツカツと冷たい音を立てた。
「…久しぶりだな。…どうやらその様子では愛しい亭主はまだご帰還されていないようだな…」
カウンター越しに貌を近づけられ、暁は無表情のまま鬼塚を見返す。
「…月城の消息は、貴方の方が詳しいのではないですか?」
鬼塚は唇を歪め、肩を竦めてみせた。
「生憎こちらも何の手掛かりもない。…あんたの亭主は存外しぶとい奴だな」
暁は小さく安堵のため息を吐く。
その貌を愉快そうに見ながら、妙な優しさを含んだ声で囁いた。
「…未亡人みたいな貌をしている。…実に色っぽい…。そんな色香を垂れ流していると、あっと言う間に犯されてしまうぞ」
暁は鬼塚を睨みつけると、後退りした。
鬼塚は愉快そうに笑うと、カウンター席に無造作に座った。
「あんた本当に三十六なのか?
…随分スレてないというかウブというか…。温室育ちのお坊ちゃんはこれだから困るぜ」
暁は鬼塚に背を向け、煎りたての珈琲豆を麻布に入れた。
水を入れた琺瑯引きのケトルに火を点ける。
「憲兵隊の情報収集能力の低さには毎回驚かされますね」
「…ああ?」
アイパッチに隠れていない眉が跳ね上がる。
棚からウェッジウッドの珈琲カップを取り出しながら素っ気なく答える。
「僕は縣家の庶子…先代の縣男爵の愛人の子どもですよ。十四歳までこの近所の浅草長屋に住んでいて、母が亡くなって人買いに売られそうになっていたところを、兄に救い出されて引き取られたんです。
それまでは食うや食わずで、栄養失調寸前でした。
母を食い物にする女衒みたいな男達に襲われかけたこともあります。…だからと言って慣れている訳じゃありませんけれどね」

鬼塚は黙り込み、気まずそうに咳払いした。
「…それは…知らなかった。あんたの経歴は調べたんだがな…」
暁はやや表情を和らげ、沸騰したばかりの湯を煎りたての珈琲豆にゆっくりと注ぐ。
馥郁たる珈琲の香りが店内に広がり、なんとはなしに二人の間の見えない緊張の糸が緩やかに解ける。
「兄が僕の将来の為にと、経歴を作り変えましたからね。身体が弱かったので生まれてすぐに田舎の遠縁の家に預けられ、丈夫になってから東京の家に戻ったと…。
…まあ、上流社会では良くあることです」



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