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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第13章 永遠の最果て
暁の流れるような美しい所作に目を奪われながら、男は呟いた。
「あんたは最初から銀の匙を咥えて生まれてきたのかと思ったぜ…。だからこんなに綺麗なのかと…」
目を合わせると、驚くほどに真っ直ぐな眼差しが暁を捉えた。
暁はややたじろぎ、黙って淹れたばかりの珈琲をカップに注いだ。
「そう見えたのだとしたら、兄のお陰です。僕は愛人の子どもですが、兄は腹違いの僕を最初から全く偏見の目で見ずにひたすら可愛がってくれました。
最高の教育を受けさせてくれ、素晴らしい人生の可能性を与えてくれました。兄には感謝してもし足りないくらいです」

丁寧に淹れた珈琲を、鬼塚の前に置く。
男は意外そうな貌をし、暁を見上げた。
「いいのか?俺はあんたの亭主を追いかけている憲兵だぜ?」
暁は少し悪戯っぽく笑いかけた。
「どうぞ。お代はしっかりいただきますので」
暁の笑顔に鬼塚は一瞬見惚れ…そんな自分を恥じるように表情を引き締めた。
そして、カップを手に取ると、珈琲を口にした。
「…美味いな…」
ボソリと呟く素朴な言葉に、暁が嬉しそうに笑った。
「良かった…。珈琲豆は最初なかなか輸入が難しくて、できても粗悪品が多かったりとか、苦労しながらここの店長はブレンドしているんです」
その珈琲を敵対する相手とは言え、賞賛されたのはやはり嬉しい。

「…これから益々こんな美味い珈琲は飲めなくなるだろうな…」
鬼塚はゆっくり味わうように珈琲を飲む。
「日本が大国に戦争に勝つには、国民総出であらゆる我慢をしなくてはならない。ましてや敵国の製品や嗜好品は国民の士気を下げる。人間は五感に訴えるものに弱いからな。洒落たものや綺麗なもの、美味いものも同列だ」
暁は思わず眉を顰め反論した。
「横暴です。敵国のものだから全てを否定して排除するような狭量ではとても戦争に勝つとは思えません。
何より敵の歴史や文化を知ることが戦争戦略には重要なのではありませんか?」

鬼塚は暁を見つめ、にやりと笑った。
「あんたは意外に骨があるんだな」
「軍部の政策が余りに雑すぎて許せないだけです。
少しでも異色なものを排除し、証拠もないのにでっち上げて咎人にしようとするあなた方憲兵の遣り口もですが…!」
溜まった鬱積を晴らすよう捲くし立て、鬼塚を睨む。
これだけ批判しても鬼塚は顔色ひとつ変えようとはしなかった。

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