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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第13章 永遠の最果て
房総の7月は既に真夏のような太陽が昇っている。
海岸からはやや水分を含んだ温かな潮風が吹きつけてくるのだ。
庭の夏野菜に水遣りをしている少年の夏服の白さが眩しい。
月城は遠くに煌めく水平線を眺めた。

…開け放たれた縁側に、まるで仔猫が泣くような…しかししっかりと存在感を示す赤ん坊の泣き声が響いてきた。
その瞬間、振り返った少年…新吾と月城は貌を見合わせた。
「…生まれた…?月城さん…」
月城は新吾に優しく笑いかけ、頷いた。
「生まれたね。…元気そうな泣き声だ…」
「早く見たいな、赤ちゃん。…母さんも…元気かな?」
そわそわと奥の間の方を伸び上がるようにして気にする新吾の頭を撫でる。
「あと少しだ。もう少しでゆっくり会える」
「うん…!男の子かな、女の子かな?」
気になることがたくさんのようで、いつもは寡黙な少年が月城に矢継ぎ早に質問する。
月城は新吾の肩を抱いた。
「どちらかな…。どちらでも、新吾の大切なきょうだいだね」
「うん!ぼく、うんと可愛がる!ぼくが世話をする!」
…突然の父親の不在、息を潜めるような逃亡の日々、見知らぬ土地での暮らし…。
新吾は何も聞かないが、薄々の事情は察知しているのだろう。
小さな胸の内に全てをしまい込んでいる少年が健気だった。
月城がもう一度強く抱きしめた時、奥の間の障子が開く音がした。
ゆっくり歩いて来たのは割烹着姿の春だ。
皺と白髪は増えたが、優しい陽だまりのような笑顔は変わらない。
陽気に月城と新吾に声をかけた。
「生まれたよ。元気な女の子だよ。お母さんも赤ちゃんもとても元気。さあ、新吾ちゃん、入っていいよ」
新吾は飛び跳ねるように板の間に上がり、脱兎のごとく奥の座敷に駆け込んだ。
「母さん!」

その様子を微笑ましく見つめながら、春に視線を移す。
月城は深々と頭を下げた。
「春さん、ありがとうございます。春さんがいなかったら、芙美さんは無事に出産することはできなかったでしょう。…本当に…何とお礼を言ったら良いか…」
声を詰まらせる月城の背中を昔のようにぽんぽんと叩いた。
「何を言っているんだよ、水臭い!あたしはあんたの東京のおっかさんだろ?
…おっかさんには甘えるもんだよ」
「…春さん…」
春は糸のように細い目で笑って頷いた。
「さあ、月城さん。あんたも赤ちゃんに会っておいで。
玉のように可愛い赤ちゃんだからね」

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