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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第13章 永遠の最果て
轟が深夜に何者かに連れ去られ、翌日遺体で発見されたと知らせが届いたのは、縣家の夜会に鬼塚少佐が踏み込んで来た日のことであった。
轟の腹心の部下が逼迫した様子で北白川伯爵家の裏口の扉を叩いた。
「轟さんは憲兵隊に惨殺されたんだ!轟さんは最後にあんたに手紙を託した。読んでくれ、轟さんの最後の遺言だ!」
手紙はあり合わせの粗悪な紙に走り書きのように書かれていた。
…手紙の内容は、自分は恐らく近々憲兵隊に捕らえられ、殺されることだろう。
何故なら、陸軍内部の機密文書を持ち出したからだ。
内務大臣の秘書をしていた頃、密かに知った機密文書の存在…。
その持ち出しに成功した。
それが表沙汰になれば、今の政府は根底から崩れかねない重要な機密文書だ。
国民の参戦への士気は下がり、同じ志を持った若者たちがクーデターを起こし兼ねないほどの重要機密文書だ。
それを憲兵隊は躍起になって探している。
俺はそれを女房の芙美に託した。
芙美は俺と一緒に活動するほど気骨がある女だ。
彼女ならこの文書を守り抜いてくれるだろう。
…だが、彼女は今身重の身だ。
あと1カ月もすれば子どもが生まれる。長男はまだ七歳だ。
万が一、芙美が憲兵隊に捕らえられたら…奴らは見せしめとばかりに残虐な拷問をし、嬲り殺すに違いない。
奴らは子どもとて容赦はしない。
お腹の子はもとより、長男も恐らく殺されるだろう。
…俺はどうなっても構わない。
だが、芙美と子ども達の命だけは守りたい。
月城、一生のお願いだ。
女房と子ども達を守ってくれ。
勝手な願いだと重々承知している。
お前の立場も考えずに、こんなことを頼む俺を許してくれ。
けれど、お前にしか…親友のお前にしか、頼めないのだ。
頼む…月城、頼む。
…走り書きはそこで終わっていた。
卓袱台の下に隠されていたその手紙は、翌日部下によって発見されたのだ。
そして同日、轟は見るも無残な変わり果てた姿で、川底から発見されたのだ…。
轟の腹心の部下が逼迫した様子で北白川伯爵家の裏口の扉を叩いた。
「轟さんは憲兵隊に惨殺されたんだ!轟さんは最後にあんたに手紙を託した。読んでくれ、轟さんの最後の遺言だ!」
手紙はあり合わせの粗悪な紙に走り書きのように書かれていた。
…手紙の内容は、自分は恐らく近々憲兵隊に捕らえられ、殺されることだろう。
何故なら、陸軍内部の機密文書を持ち出したからだ。
内務大臣の秘書をしていた頃、密かに知った機密文書の存在…。
その持ち出しに成功した。
それが表沙汰になれば、今の政府は根底から崩れかねない重要な機密文書だ。
国民の参戦への士気は下がり、同じ志を持った若者たちがクーデターを起こし兼ねないほどの重要機密文書だ。
それを憲兵隊は躍起になって探している。
俺はそれを女房の芙美に託した。
芙美は俺と一緒に活動するほど気骨がある女だ。
彼女ならこの文書を守り抜いてくれるだろう。
…だが、彼女は今身重の身だ。
あと1カ月もすれば子どもが生まれる。長男はまだ七歳だ。
万が一、芙美が憲兵隊に捕らえられたら…奴らは見せしめとばかりに残虐な拷問をし、嬲り殺すに違いない。
奴らは子どもとて容赦はしない。
お腹の子はもとより、長男も恐らく殺されるだろう。
…俺はどうなっても構わない。
だが、芙美と子ども達の命だけは守りたい。
月城、一生のお願いだ。
女房と子ども達を守ってくれ。
勝手な願いだと重々承知している。
お前の立場も考えずに、こんなことを頼む俺を許してくれ。
けれど、お前にしか…親友のお前にしか、頼めないのだ。
頼む…月城、頼む。
…走り書きはそこで終わっていた。
卓袱台の下に隠されていたその手紙は、翌日部下によって発見されたのだ。
そして同日、轟は見るも無残な変わり果てた姿で、川底から発見されたのだ…。