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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第13章 永遠の最果て
月城は夜の闇に紛れて、轟の妻子を連れ出した。
轟の妻、芙美は既に夫の死を知らされていた。
気丈な芙美は、涙ひとつ見せずに月城に頭を下げた。
「月城さん、すみません。関係ない貴方にご迷惑をお掛けして…。けれど私は、轟の忘れ形見を無事に産みたいのです」
地味な束髪に粗末な銘仙の着物を着た芙美はどこか光に似た勝気な眼差しが印象的な美人であった。


芙美は貧しい東北の農村生まれであった。
口減らしで僅か十三歳で東京に奉公に出され、日本橋の老舗のお茶屋の下働きで働いていた。
奉公先の我儘な娘の理不尽な意地悪にも耐え、必死で働いた。
向上心のあった芙美はしかし、独学で読み書きを勉強し、政治や社会情勢にも興味を持ち、十八歳の時に通いだした反政府運動の集会で轟と出会ったのだ。

芙美の美少女ぶりと生来の利発さに一目惚れした轟に熱烈に求婚され、結婚した。
運動に心血を注ぐ轟には、殆ど収入はなかった。
芙美が働き、家計を支えた。
数年後、長男の新吾が生まれた。
産後早々、首が座ったばかりの新吾を背負いながら芙美は働いた。
働くのは苦ではなかった。
夫は無骨だが真面目で情熱家で優しかった。
子どもも大層可愛がった。
狭い家には轟を慕う若い同志が集まり、まるで大家族のような賑やかさであった。
夫を献身的に支える美しく賢い芙美は、轟の部下達の人気者であった。
家族の縁が薄い芙美は、ようやく温かな家庭を手に入れたのだった。
貧しくとも幸せだった。
夫が更に危険な運動を推し進めていることは分かっていた。
けれど、夫の理想郷は芙美の理想郷でもあった。
自由、平等、博愛…。
それらは夫婦の合言葉でもあったのだ。


…だが、その夫は死んだ。
憲兵隊に惨殺されたのだ。
七歳の長男と身重の妻を遺して…。
涙も出なかった。
…次は自分達の番かも知れない…。
子ども達が奪われるかも知れない…。
殺されるかも知れない…。
そんな身の毛もよだつ恐怖が、頭を掠めた。

…夫の親友だという今まで見たこともないほど美しく端正な男…月城が現れたのは、その矢先のことだった。

彫像のように怜悧に整った美しい貌で、男は言った。
「芙美さん、私は轟にあなた方の命を託されました。
あなた方の命は私が守ります。ご安心下さい」







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