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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第13章 永遠の最果て
襖をそっと開けると、新吾が誇らしげに振り返った。
「月城さん!見て!僕の妹だよ!」

布団に寝かされていた芙美は、出産後すぐということもあり、透き通るような白い肌をしていたがその貌は安堵の色に満ちていた。
下ろし髪で白地の浴衣姿の芙美は、月城を見るとその理知的な瞳に涙を滲ませて、微笑んだ。
「…月城さん、抱いてやって下さい。貴方のおかげで無事に生まれた子です」

月城は木綿のおくるみに包まれ、真っ赤な顔をして眠る小さな赤ん坊を春の手から抱き取った。
…軽い…羽のような重さの赤ん坊はしかし、月城に抱かれると眩しげに瞼を開けた。
白眼が青いほどに澄んだ無垢な瞳でじっと月城を見ると、可愛らしいあくびをして見せた。
月城は思わず笑いを漏らした。
「…可愛い赤ちゃんですね。元気そうだ…。良かった…」
芙美は嬉しそうに月城を見つめた。
「月城さんと…春さんのおかげです。ありがとうございます…」
春はにこにこしながら、赤ん坊の血色の良い頬をつついた。
「あたしは赤ちゃんが大好きでね。北白川のお屋敷にお仕えしていた時にたまたま知り合ったお産婆さんと友達になってね。
彼女から赤ちゃんの取り上げ方を習ったことがあったんだよ。この村に帰ってからも村の奥さん達の出産でお産婆さんが間に合わない時に何度か赤ちゃんを取り上げたことがあってさ。
その経験が役立って良かったよ」
春は事も無げに明るく笑った。
「…春さん…」


奇跡のような幸福な偶然が重なったのだと、月城は思った。
芙美親子と逃亡を始めて直ぐに、芙美は産気づき始めた。
二人目の出産…直前の夫の死…様々な要因が早産を引き起こしたのだろう。
産気づいた芙美を遠くに連れ出すことは出来ない。
しかし、東京からは離れなくてはならない。
絶対絶命の時、月城の頭に浮かんだのは、数年前に料理長を引退し、故郷の房総の村に帰った春の面影だった。

春は実家の両親が遺した海の見える家で一人で暮らしていたのだ。
息も絶え絶えな芙美を抱きかかえるように鈍行に乗り、不安がる新吾を宥め、漸く春の家に辿り着いた。
春は月城と芙美親子を見るなり、何も言わずに中に招き入れてくれた。
そしてまるで月城を励ますように、いつもの笑顔を見せたのだ。
「事情はあとでゆっくり聞くよ。まずはお産の準備だ。
月城さん、坊や、手伝っておくれ」

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