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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第13章 永遠の最果て
朝食を終えると、新吾は芙美の元に春が煮た卵粥を届けに行った。
まだ七歳なのに、新吾は母親の芙美を守るという気概に満ちた少年だった。

二人きりになった座敷で、月城は事の経緯を話した。
春は最後まで黙って聞いていたが、ぽつりと尋ねた。
「…暁様は…ご存知なのかい?」
ずっと考えまいとしてきたそのひとの名前を口にされ、月城の頬は僅かに引き攣った。
…暁様…!
その名前を聞くだけで、胸が引き裂かれるかのように痛む。
「…いいえ。何も申し上げずに姿を消しました…」
春は初めて憤慨したように声を上げた。
「何てことを…!あんなにあんたを愛していらっしゃる暁さまに黙っていなくなるなんて!今頃どれほど心配していらっしゃるか…考えられないあんたじゃあないだろう⁈」

春は暁に何度も会ったことがある。
麻布十番の月城の家に招き、食事をしたこともある。
春は手作りのウェディングケーキを焼いて持って来てくれたのだ。
「あたしは嬉しいんですよ。月城さんはあたしの息子みたいなもんだから…。暁様のようにお美しくてお優しくて素晴らしい方が伴侶となるなんて…」
何の偏見も持たずに、そう嬉し涙まで浮かべて祝福してくれたのだ。
…暁は、白い頬を薔薇色に染めて喜びを噛み締めて、春の手を握り微笑んだ。
「…春さん。ありがとうございます。春さんが月城のお母さんなら僕にとってもお母さんですね…」

…あの幸せな日々は手の届かない、遠い昔のことになってしまったのだ…。
「月城さん、頼むから暁様にだけは知らせて差し上げておくれよ。お気の毒すぎるじゃないか」
懇願する春に、月城は敢えて無機質に答えた。
「お伝えする訳にはいきません。暁様のお耳に入ってしまったら、暁様も共犯となってしまいます。
…私はこれ以上暁様の人生を穢す訳にはいかないのです。
私は轟と約束しました。芙美さんと子ども達を守ると。死を賭けて託された想いを、違える訳にはいかない。
その願いを聞き届けるまでは、私は暁様の前に現れるつもりはありません」
春は暫く黙っていたが、悔しそうに言った。
「あんたはとんでもない頑固者だよ。暁様はお気の毒だよ。こんなあんたをずっと待っていらっしゃるんだよ…!」

…暁様…。
月城は胸の内で呟いた。
どうかこんな不実な男のことはお忘れ下さい…。
貴方とは相容れない道に踏み出してしまった私を…どうかお忘れ下さい…。



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