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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第13章 永遠の最果て
翌日の夜、月城は東京は上野の場末のバーにいた。
敢えて古びたシャツ、粗末な上着を着て労務者風の格好をし、目立たぬように奥の席で人を待つ。

待ち人は程なくして現れた。
目付きの鋭い、若い青年…。
冴島は轟に心酔していた一番の腹心の部下だ。
たから今回の芙美親子を連れての逃避行についても、冴島にだけは知らせていたのだ。

冴島は座るなり、声を潜めて月城に尋ねた。
「芙美さんは元気か?お腹の赤ちゃんは?」
「元気だよ。昨日、無事に産まれた。…元気な女の子だ」
冴島は深く息を吐いた。
「良かった…!本当に良かった…」
そして、月城を見ると改まった表情で頭を下げた。
「…ありがとうございました」

冴島は芙美が好きなのだろうと、月城は察した。
その熱の篭った目を見れば明らかだった。
「いや、私の古くからの友人の尽力のお陰だ」
冴島は不意に疑念の眼差しで月城を見上げた。
「その人は、信用できるんだろうな?」
轟が惨殺され、仲間は散り散りに逃げている。
疑心暗鬼になる気持ちも分からないではない。
「大丈夫だ。その人は私の家族のような人だ。口は堅い。心配はいらない。
…それよりも…」

月城は声を潜め、語りかける。
「…いつまで芙美さん達に逃亡生活をさせるつもりだ?」
月城は確かに轟の遺言を叶えるべく、芙美親子の逃亡を手助けした。
それは身重の芙美が憲兵隊に捕らえられたら、命の危険があるから引き受けたのだ。
無事に出産させ、命の危険を回避することが一番の優先順位だったからだ。

「子どもも生まれ、これからずっと日陰の生活をする訳にはいかないだろう。新吾くんも学校に通わなくてはならない年頃だ。いつまでも憲兵隊の目を避け、逃げ続ける訳にはいかない。
轟の願いは芙美さんが活動を続け、危険な生活を続けることではないはずだ。
…私は、芙美さん達を普通の生活に戻して上げたいと考えている」
冴島の眼が月城を睨んだ。
「何を言っているんだ、あんた!芙美さんは俺達のジャンヌダルクみたいな存在だ。今更、普通の市民に戻りたいなどと言うはずがない!」
「…芙美さんの今の気持ちを、君は聞いた訳ではないだろう?」

冴島は吐き捨てるように言い放った。
「あんた…芙美さんを懐柔しようとしているんじゃないだろうな?
…あんた、えらく色男だもんな。女を誑かすなんてお手の物だろう」






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