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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第13章 永遠の最果て
春の家の前の緩やかな坂道を下ると、もう目の前には夏の海が広がっていた。

雲ひとつない青空との境界線が分からぬほどにどこまでも広がる蒼い水平線…打ち寄せる穏やかな白い波…さらさらとした白い砂浜…。
芙美は、思わず感動のため息を吐いた。
「綺麗…」
芙美の声に月城が振り返る。
その、信じ難いほどの美貌には優しい笑みが浮かんでいた。
「海は久しぶりですか?」
芙美は月城の美しい貌に見惚れて…そんな自分を恥じ入るように貌を赤らめ、首を振った。
「…初めてです。私が育った村は海がなくて…東京に出てきてからも、海になんか行く暇もお金もなくて…」
奉公先の家の娘が夏ごとに江ノ島の海に海水浴に行くのを、まるで外国に行くひとのように羨望の眼差しで見ていたものだ。
…結婚してからも夫を支え、運動を手伝い、子どもを育てるので精一杯だった。
轟とはもちろん、新婚旅行はおろか家族旅行もしたことはない。
それを不満に思ったことはないが、轟が亡くなり家を追われ、逃亡生活をしている中で初めて海を訪れたことは皮肉と言えば皮肉であった。

…しかも、今まで見たこともないほどの眼が覚めるような美貌の男と海を眺めている…。
胸に過ぎった甘いときめきに、芙美は罪悪感を覚えた。
…あの人が亡くなって、まだ二週間足らずだというのに…私は…何て薄情な…。

自分を戒めるように、足早に浜辺を歩こうとして、沈み込む砂に下駄を取られ、よろめいた。
「あっ…!」
すかさず、月城の手が芙美の身体を支えた。
ひんやりとした美しい男の手が、芙美の手を握りしめる。
「大丈夫ですか?」
労わるように尋ねる男の身体からは水仙のような清廉とした薫りが漂った。
芙美の全身がかっと燃え上がるように火照る。
「だ、大丈夫です…」
芙美は慌てて手を離した。
月城は芙美を見守るように優しく伝えた。
「砂浜は足を取られますから、気をつけてください」
すらりとした美しい姿勢を見せながら、月城は芙美の少し前を歩き出した。

…何て…何て綺麗な人かしら…。
芙美はうっとりと見つめてしまう。

月城は大貴族の伯爵家に仕える執事だと聞いた。
…だから物腰や話し方が優雅で上品で美しいのだ…。
芙美の周りには決していない、まるでお伽話から抜け出てきたような美しい男…。

芙美はふと思う。
…こんなにも美しいひとには…どんな恋人がいるのかしら…。






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