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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第13章 永遠の最果て
「私のこと…ですか?」
月城は頷いた。
「先日、冴島さんに会いました。彼は、貴女と新吾くん達を支那に連れて行くと言いました。
それを芙美さんは了承していると。
…本当ですか?」
芙美は少し躊躇したのち、頷いた。
「…はい。以前から轟と話し合っていたのです。
日本でいよいよ追い詰められたら、支那に行こう…と。
支那には轟の帝大時代の友人がいて、新国の建設に携わっているんです。
支那で、国境も人種も関係ない…誰もが自由に暮らせる国を作ろう…と、彼らは理想に燃えているんです。
私たちもその手伝いをして、いつかは国籍関係なく皆が幸せに暮らせる理想の国を作りたいんです」
熱っぽく理想論を語る眼差しは轟に良く似ていた。
この夫婦は二人三脚で理想の国作りを夢見てきたのだろう。
…しかし…と月城は思う。
芙美の話はまるで夢物語のように聞こえたのだ。
言葉も通じない国へ行き、仕事もなくどうやって暮らして行くというのか。
仲間たちも恐らくは窮困の生活をするに違いない。
…そんな中、まだ幼い子どもと乳飲み子を抱えて…。
無理に決まっている…。

月城は教え諭すように語りかけた。
「芙美さん、貴女の志の深さは良く分かりました。
…けれど、新吾くんと七海ちゃんを抱えて政情不穏な支那で、新しい政治活動をするのは危険すぎる。
…あの機密文書を持ったまま、支那に渡ればまた日本の憲兵隊に追われるに違いありません。
…芙美さん、もう普通の生活に戻ることはできませんか?
ここにいれば春さんが力になってくれます。
新吾くんを学校に通わせることもできる。七海ちゃんも安心して育てることができます。
…新吾くんは、ここに住みたいと私に話してくれました」

芙美の貌が強張った。
確かに…新吾はここに住むようになり、日に日に子どもらしい笑顔を取り戻すようになった。
新吾は毎日春と海に行き、海藻や貝を拾う。
昨日は近所の子どもと磯遊びをしたと眼をきらきらと輝かせながら芙美に語った。
新吾の屈託のない笑顔を見たのは、何年ぶりだったろう。
いつも身を潜めるように過ごさせてしまっていた…。
親として胸が痛む。

…しかし…。
自分が亡き夫の意思を受け継がなくては…彼は犬死ではないか…。

…月城には、美しい伴侶がいる。
彼がその逞しい腕で抱きしめるひとは…自分ではないのだ。
理不尽な憤りが、胸を渦巻いた。






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