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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第13章 永遠の最果て
暁は光の手を握りしめながら、頭を下げた。
「…これは大切にお預かりします。
今度、義姉さんにお会いした時にきちんとお返しできるように…これをお守りにして二人でしっかりと生きてゆきます…」
光は笑った。
「もう…律儀なんだから」
そして光は傍らの月城と抱擁をかわす。
「…お元気でね…。暁さんと、幸せになるのよ」
抱擁を解きながら、少し婀娜めいた眼差しで月城を見上げた。
「…昔、こんなことがあったわね。…貴方はもう忘れてしまっただろうけれど…」
月城は穏やかに微笑んだ。
「もちろん覚えております。…私の美しい思い出です」

…昔、遥か昔…。
避暑地の夏の昼下がり…まるで何かの運命の戯れかのように、麗しい侯爵令嬢とキスを交わした。
…軽井沢の小さな丘…遠い記憶だ…。
けれど、今も尚、胸の片隅で小さく煌めく美しい…大切な記憶であった。

礼也がやや居心地悪そうに咳払いをしながら口を開いた。
「フランスに渡ったら、まずはパリの風間くんのところに行きなさい。司くんが電報を打ってくれた」
礼也の背後から、司が現れた。
「父は喜んでいました。頼ってくれて嬉しいと…。歓迎するから心配はいらないと…。
…これ、パリの地図と僕の手紙です」
司は美しい端麗な美貌に泣きそうな表情を浮かべる。
世間の荒波から守られ、両親に大切に育てられてきた青年には今回の事件は衝撃であったろう。
暁は済まなく思う。
「ありがとう。君にも迷惑をかけて、ごめんね」
暁の謝罪に司は首を振る。
「いいえ!暁さんと月城さんがフランスでお幸せになるように、祈っております」

戦争が始まり、もはや司も容易には渡仏はできない。
両親や妹にも会いたいだろう。
そんな中、自分達だけを快く送り出す司の優しさに暁は言葉が詰まる。
「…司くん…」
暁の心の内を察したかのように、司は華やかな美貌に明るい笑みを浮かべた。
そしてやや艶めいた小さな声で囁く。
「僕は大丈夫ですよ。…愛するひとが側にいますから…」
「司くん…」

そうだ。司には泉がいるのだ。
まだ始まったばかりの恋だが、泉ならこれからどんなに世の中が変わっても、司を守り愛し続けるだろう。
暁は微笑みながら、黙って司を抱きしめた。
そしてそっと囁いた。
「…元気で…二人で幸せになるんだよ…」




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