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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第13章 永遠の最果て
礼也自ら運転するメルセデスが横浜の埠頭に着く頃には、夏の夜空に三日月が輝いていた。

暗い波止場に接岸しているのはフランス行きの大型貨物船だ。
今夜、この貨物船は縣商会ほか東京の商社が扱う日本製の家具や調度品などを載せ、マルセイユに向けて出発するのだ。
そしてこの便が事実上、民間で渡仏出来る最後の船であった。
既に船長には話を通し、船内を調査する検閲官には多額の賄賂を渡していた。

車を降り立つと、暗闇の中を一目散に駆け寄ってくる男たちがいた。
「暁坊ちゃん!坊ちゃん!」

暁は思わず声を上げた。
「玉木!…みんなも…!」
既に縣商会を引退した番頭を始め、暁を熱愛し親衛隊の如く守ってくれていた老社員の面々だった。

「暁坊ちゃん!坊ちゃんがおフランスに行かれてしまうって聞いて飛んできたったい!」
「ほんまに行ってしまうったいね…!寂しかあ…、もう坊ちゃんに会えんと⁈わしゃあ、嫌じゃあ…!」
「こら!お前が泣いてどうすると?坊ちゃんかて不安なんやけん。泣いたらいけん!」

大騒ぎしながら縋りついてくる年老いた忠実な部下たちに、暁は思わず涙ぐむ。
「…みんな…ありがとう。こんな僕に…ずっとついてきてくれて…本当に…ありがとう…。
何も返せないで、日本を離れてしまう僕を許してくれ…」
玉木が毅然として首を振る。
「何を言うがですか。坊ちゃんの優しさ、立派さ…わしらは決して忘れやせんですよ。こんな…夢のように綺麗な坊ちゃんと働けて、みんな幸せやったとです」
皆が一斉に頷く。

縣商会の社員たちは、元は飯塚の炭鉱の街から連れられた荒くれ者や血気盛んな者たちだ。
喧嘩っ早く気短な者も多かったが、彼らは実は心根の優しい情に厚い者たちばかりであった。
暁は、彼らに育てられたようなものだった。

時には過剰ともいえるような濃い愛情を示して来る彼らといる時間は、本当に居心地が良かったのだ。
…彼らとも、もう会うことは出来ないのだ…。
寂しさに暁の胸は切なく痛む。








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