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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第14章 Coda 〜last waltz〜
鬼塚の遠ざかる足音が消えるまで、大紋は立ち尽くしていた。
遣る方無い憤りが胸の中を去来する。
「…生きて帰れ…必ず…」
祈りを捧げるように呟く。

ふと、背後から軽い足音が聞こえてきた。
「貴方…?どなたか、いらっしゃるの…?」
絢子の不安げな声が続いた。
大紋はゆっくりと振り返る。
「絢子…。…いいや。誰もいないよ」
絢子は大紋の貌を見ると、ほっとしたように笑った。
葡萄酒色のベルベットとレースで出来たイブニングドレスの裾が雪に埋まるのも構わず、大紋の元に駆け寄る。
「お寒くはありませんか?おみ足に良くありませんわ。さあ、早く中に…」
「…うん」
大紋は妻の腰に手を回し、ゆっくりと屋敷へと歩き始めた。
少し脚を引き摺る夫を気遣うかのように、絢子はその華奢な腕で健気に支えようとする。

…昔と全く変わらぬ若々しく愛らしい妻の貌をそっと見下ろす。

大紋が撃たれたとの一報を聞き、病院に駆けつけた絢子は子どものように泣きながら大紋に取り縋った。
普段慎み深く、物静かな絢子からは想像もできないほどに激しい取り乱し方であった。
「あなた…!死なないで!死んではいや!あなたが亡くなったら…絢子も死にます!」
付き添った暁人が慌てて絢子の肩を抱き、落ち着かせようとする。
「お母様、お父様は大丈夫です。軽傷だとお医者様が…」
「あなた…!死んではいや…死んではいや…」
譫言のように繰り返しながら泣き伏せる絢子の手を、大紋はそっと握りしめた。
「死なないよ、絢子。君や暁人を残して、僕が死ぬわけがないだろう」
絢子はその手を強く握りしめ、いつまでも啜り泣いていた。

暁人が呟いた。
「…お母様にとって、お父様は命の全てなのですね。
…なんだか羨ましいです」
大紋はベッドに横たわったまま、絢子の髪を優しく撫でた。
…絢子の愛は、出会った時から全く変わらない。
全身全霊で、自分を愛してくれる…。
そのおとなしやかな心を奮い立たせながら…。

温かな泉が胸の奥底から湧き上がってくるような感情が、ひたひたと大紋を包み込む。
大紋はそっと告げた。
「…暁人、私は幸せ者だな…」


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