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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第14章 Coda 〜last waltz〜
屋敷の中に戻ると、大紋は絢子の艶やかな髪に降り積もった雪を優しく払ってやった。
絢子は恥ずかしそうな表情を、その愛らしい貌に浮かべた。
「…温かい珈琲を頂いてまいりますわね。貴方はこちらでお座りになって…」
行きかける絢子の華奢な手を握りしめ、引き止める。

「…貴方…?」
不思議そうな貌をする絢子を柔らかく抱きしめる。
静かに…大切な言葉を初めて告げる。
「…愛しているよ。絢子」
腕の中の絢子のか細い身体が、びくりと震えた。
「…あの…今…なんと…」
「愛している。…こんな言葉を伝えるのに、随分長いこと君を待たせてしまったね。僕を許してくれ」
そっと腕を解き、絢子の貌を見つめる。
絢子は泣いていた。
白い頬に涙を伝わらせ、首を振る。
「…いいんです…だって私は…無理やりお願いして貴方と結婚していただいたのですもの…」
絢子は未だに自分との結婚を引け目に思っているのか…。
その胸中を思うと胸が痛んだ。
大紋は真摯に語りかける。
「…それは違う。絢子、僕は君を選んだのだ。
他の誰でもない…君自身を選んだのだ」
…そうだ。暁ではなく、絢子を選んだ。
自分の意思で…。
そして、その選択に今は微塵の後悔もない。

小さな妻の貌を、両手で愛おしげに包み込む。
「…君はずっとこんな僕を愛し続けてくれた。
ありがとう…。いくら礼を言っても足りないくらいに君には感謝しているよ。
…そして…愛している。…これからもずっと僕のそばにいてくれ…」
少女めいた清楚な絢子の貌が歪み、透明の涙の雫がとめどなく流れ落ちる。
「…貴方…!」
感極まり、言葉にならない妻に大紋は優しくキスを贈る。
「…泣かないで、愛していると言ってくれ」
囁くような小さな声がそれに応える。
「…愛していますわ。…永遠に…」
再び泣きじゃくってしまった妻を、微笑みながら抱きしめる。

…サンルームの窓硝子越しに、白い天使は舞い降り続ける。
大紋は初めて、聖夜の意味を知るのだった。


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