この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第14章 Coda 〜last waltz〜
泉は屋敷のプロムナードに佇み、あるひとの帰りを待っていた。
白い吐息がそのまま雪の結晶に変わってしまいそうな夜だ。
…雪は深々と降り積もり、辺りの景色を銀世界へと変化させていた。
大紋一家は帰宅し、宴の賑やかさから屋敷は静けさを取り戻しつつあった。

あの夜も…聖夜だった。
泉は昨年のクリスマスの夜の光景を思い出していた。
…失恋し傷心の司と温室でワルツを踊り、初めてのキスをした。
そして、新年に二人は結ばれた。

…あれから一年か…。
激動の一年だった。
縣家の実質的な執事である泉は様々な出来事に対応するのに精一杯だった。
司と愛を育む時間と余裕が殆どなかった。

…それに…
このまま恋人同士の関係に突き進んで、本当に良いのだろうか…。
常にその疑問が胸を去来する。
司はホテル・カザマを経営する富裕な資産家の孫だ。
司の祖父は司を目の中に入れても痛くないほど、可愛がっている。
いずれは自分の築き上げたホテルの経営を孫に委ねたいのではないか…。
また、遠く離れたパリに暮らす一家はいずれ司がフランスに帰国することを願っているだろう。

…自分とは住む世界が違いすぎるのだ…。
屋敷で催されるお茶会や夜会で、たくさんの来客に囲まれながら、眩いばかりの美麗さに輝く司の姿を見るたびにその思いを深くした。
きらきらと煌めく美貌の貴公子の彼には常に取り巻きの人間が数多くいるのだ…。

司は泉の視線を感じると直ぐに眼を合わせ、嬉しそうに微笑む。
その度に、抑えきれない司への愛おしさが増す。
…けれど、泉は敢えて儀礼的な微笑を浮かべ、黙礼し…彼の前から去った。
…司の美しい貌が落胆に曇るのを眼の端に認めながら…。
胸がちりちりと焦げ付くように痛む。
…だが、この方が良いのかもしれない。
このまま、何となく二人の関係は自然消滅する方が、司の為なのかもしれない…。

そう思い始めていた。
…今日までは…。

邸宅の門扉の方から、車の気配と共に人の声が聞こえてきた。
「司様、申し訳ありません。急に雪が積もり出して…これ以上車が進まないんです…。困ったなあ…」
運転手の当惑した声に、爽やかな声が答える。
「僕は大丈夫。ここから歩くよ。…気をつけて運転してきてね」
…ドアが閉まる音に続き、雪道を踏みしめる軽い足音が聞こえてきた。

泉は力強く、彼の足音が聞こえる方へと歩き出した。



/954ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ