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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第14章 Coda 〜last waltz〜
「…すごいよ、暁人!雪、あんなに積もったよ!」
屋根裏部屋の窓辺に身を乗り出し、夜景を眺めていた薫が叫んだ。
暁人は薫の代わりに作っていたプラモデルを置くと、立ち上がった。
薫と並んで窓の外を眺める。
「…本当だ。…一面銀世界だ」

大紋夫妻と一緒に帰ろうした暁人を、車寄せで薫は引き留めた。
「やっぱり今夜は泊まっていって。いいだろう?」
暁人は驚いた。
薫からねだることは滅多にないからだ。
その様子を見ていた父親は微笑みながら暁人の肩に手を置き
「泊まってあげなさい。明日、迎えの車を寄越す」
と言い置くと、母親を優しくエスコートし、車に乗り込んでしまった。

薫の隣で窓の外を見つめる。
縣家の広大な庭園は今や白銀の世界と化していた。
屋敷を取り囲むように植えられている背の高い樹々も白い綿帽子に覆われ…その様は世間から隔絶された幻想的な風景であった。

しばらく押し黙っていた薫が口を開いた。
「…暁叔父様と月城はニースにいるんだって…」
父親から聴いたのだろう。
「…そうか…。ニースは良いところだよ。気候は温暖で、避暑地としても有名だし。
パリは日本人も多いし、スパイも暗躍しているらしい。田舎の方が安全だ。きっと落ち着いてお過ごしになっているよ」
「…うん…」
暁人の言葉に素直に頷き、伏し目がちに眼を伏せた。
その横顔は、ランプの光に照らされてぞっとするほどに美しかった。
…薫は最近また一段と綺麗になった。
背も少し伸び、大人びた雰囲気になり…なによりまるでアンティークドールのように精巧で繊細な美貌に磨きがかかり、学院では薫を巡り上級生達の本気の諍いが起こるほどだった。

暁人は少し居心地が悪そうにさり気なく距離を取る。
怪訝そうに薫は眉を寄せて暁人を見上げた。
「何?」
「…いや、別に…」
口籠もりながらテーブルに戻る。
続きのプラモデル作りを始める。
…クリスマスプレゼントにと父親から貰った豪華客船のプラモデルを、薫ははなから出来ないと投げ出し、暁人に押し付けてきたのだ。
慎重にボンドをつけていると、背後からふわりと花の香りが漂ってきた。

「…ねえ、暁人」
…薫はいつも良い匂いがする。
それは極上の温室咲きの薔薇のような香りだ。
無頓着な薫のことだから、香水などではない。
天然の香りなのだ。
暁人はどきどきしながら、敢えて平静とした声で答える。
「うん?」
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