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隠密の華
第11章 十

大きな掌で触れられるのは、隠密になった時以来だが。……その時とは違う。部下としてではなく男として頭を撫でられていると思うと、急に鼓動が跳ね上がる。

「設樂様っ……」

「独り身の戯れ言だと思ってくれ」

「そんな事を言われても……!」

きっと顔も紅潮していることだろう。焦りつつ設樂様の顔を見上げながら微笑み返されると、私は更に緊張と恥ずかしさで体温を上昇させた。……まさか設樂様が私を想っていたなんて、信じられない。何故私なのだ……。

「白夜の前に、もう一人嫉妬している奴がいるが……」

鼓動を高鳴らせたまま、設樂様の言葉を聞いて不思議になる。だが、すぐに近くから声がすると、その意味が分かった。

「……手出しちゃいけねーって、あんた国を出る時、俺にそう言ったよな?」

「ああ……言ったな」

「その手は何だ!指一本触れるなって俺には言っておいて!自分は触ってるじゃねーか!」

……桐、何故そんなに怒っているんだ。

設樂様と桐の会話を聞きながら、私は呆れて後ろから近づいてくる桐へ顔を向ける。


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