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終止符.
第11章 うつろい
奈緒は残りの1週間を充実させようと努めた。

引き継ぎや、雑用をきめ細かくこなし、後に雑用が残らないように心を砕いた。

デスクの中も少しずつ整理して、必要最小限の物だけを残しながら仕事を続けた。

「新しい人が決まるまで奈緒の分もがんばらなくちゃ。」

「お願いね。」

沙耶とのやり取りのそこここに切なさが入り交じってくる。

「明日の飲み会ね、部長は来られないかも知れない…」

沙耶がすまなそうに話しかけてくる。

「構わないわよ、…たしか明日あたり、奥様退院じゃないの?」

「じつはそうなの…あぁ残念…」

「あはは、仕方ないわよ。新しい家族を我が家に連れて来るんだもの。」

奈緒はほっとした。
篠崎に来られたら落ち着かなくなるのは目に見えている。

「それにいつもはさ、退職する社員には社長がわざわざデスクまで来て、花束渡してくれてたよね。」

「そうだったね。」

「今回はそれもなし。」

「だって入院中なんだもの。」

「ポリープってそんなに長く入院するかなぁ。」

「うーん、…とにかくしょうがないのよ。」

だんだんと社内でも噂になってきた社長の病状の事は奈緒も気掛かりだったが、篠崎に聞くわけにもいかなかった。

奈緒は豪快な印象でぼくとつな優しさのある社長の人懐っこい笑顔が好きだった。

社長が側に来ると緊張はするが、話し掛けられるとなぜか心が和み、人の大きさを感じさせられた。

ずいぶん前に妻に先立たれたと聞いてからは、残された娘を男手一つで育て上げた姿を思い、尊敬の念を強くしていた。

社長からの花束に目を潤ませる社員を何人も見てきた奈緒は、やはり少し残念だった。

「経理部の他に千秋と、森下さん、それから他からも来るから全部で13名。」

「そんなに?」

「ホントはもっといたんだけど社長の事もあるから大々的に声は掛けられなかったんだよ。」

「………」

「奈緒、最後はパァーっとやろうよ。奈緒の旅立ちだよ。」

「旅立ち?」

「そうだよ、違うの?」

「……違わない。」

「旅立つ人はね、前を向くんだよ。振り返るのはずっとあとから。」

「うん。」

「大海に船を出せー、荒波を乗り越えろー。」

「ぷっ、あはははは…」

「あははは…」

周囲の視線に慌てて口を押さえ、目を見合わせながら、奈緒は沙耶の友情に心から感謝した。


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