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終止符.
第11章 うつろい
次の日の午後、書類を取りにデスクに戻って来た篠崎が奈緒を呼んだ。
「立花さん、ちょっと。」
「はい。」
みんなの視線を感じながらデスクを挟んで篠崎の前に立つ。
「今日が最後だね。」
「はい。」
周囲が静まり返る。
「君にはずいぶん助けられたよ。仕事も手際よく進められた。……いなくなるのは残念だ。」
「ありがとうございます。」
「私はこの後出なくちゃならないから、ここで会うのはこれが最後だ。」
「はい。」
「違う場所での活躍を祈ってるよ。」
「はい、がんばります。お世話になりました。」
奈緒が頭を下げると温かな拍手に包まれた。
「部長、奈緒と…立花さんと握手してあげて下さい。部長に憧れていたんです。」
沙耶の言葉に笑いが沸き起こり、一段と拍手が大きくなった。
篠崎は「えっ?」という顔をして微笑み、奈緒は沙耶を振り返りながら人差し指を唇にあてた。
それが更に笑いを誘い、篠崎の方に向き直ると、優しく微笑みながら右手を差し出して来た。
奈緒はコクリと頷いて篠崎を見つめ、そっと手を差し出した。
温かい大きな手は奈緒の手をそっと包み込み、優しく力を入れながらゆっくりと上下に動かす。
奈緒が少し会釈をした時、篠崎の左手が頭をぽんぽんと軽く叩いた。
ハッとして顔を見つめると篠崎は小さな声で「ありがとう。」と言った。
女子社員から「いいなぁ~。」と言う声が上がる中、奈緒は熱いものを必死に堪えながら沙耶にピースサインをして席に着いた。
「寺田さん。」
沙耶が呼ばれた。
「はい。」
篠崎と短いやり取りをした沙耶が席に戻ると、篠崎は「頼んだよ。」と沙耶に言い残し、ちらりと奈緒に目配せをして職場を後にした。
今までいた奈緒の立ち位置が沙耶のものなっていた。
「奈緒。」
「ん?」
沙耶が耳元でこっそりと囁いた。
「飲み会資金ゲット。」
「えっ?」
「よっしゃー! 皆さん今宵は飲み放題となりましたーっ。」
「やった!」
「さすが部長!」
沙耶はみんなから集めた会費を返金しながら明るい笑顔を振りまいている。
沙耶の明るさはこれからもみんなのやる気を引き出すだろうと奈緒は思った。
羨ましかった。
そして寂しかった。
自分がいなくても誰かがやってくれる、べつに篠崎が困るわけではないのだと奈緒は自分を納得させた。
「立花さん、ちょっと。」
「はい。」
みんなの視線を感じながらデスクを挟んで篠崎の前に立つ。
「今日が最後だね。」
「はい。」
周囲が静まり返る。
「君にはずいぶん助けられたよ。仕事も手際よく進められた。……いなくなるのは残念だ。」
「ありがとうございます。」
「私はこの後出なくちゃならないから、ここで会うのはこれが最後だ。」
「はい。」
「違う場所での活躍を祈ってるよ。」
「はい、がんばります。お世話になりました。」
奈緒が頭を下げると温かな拍手に包まれた。
「部長、奈緒と…立花さんと握手してあげて下さい。部長に憧れていたんです。」
沙耶の言葉に笑いが沸き起こり、一段と拍手が大きくなった。
篠崎は「えっ?」という顔をして微笑み、奈緒は沙耶を振り返りながら人差し指を唇にあてた。
それが更に笑いを誘い、篠崎の方に向き直ると、優しく微笑みながら右手を差し出して来た。
奈緒はコクリと頷いて篠崎を見つめ、そっと手を差し出した。
温かい大きな手は奈緒の手をそっと包み込み、優しく力を入れながらゆっくりと上下に動かす。
奈緒が少し会釈をした時、篠崎の左手が頭をぽんぽんと軽く叩いた。
ハッとして顔を見つめると篠崎は小さな声で「ありがとう。」と言った。
女子社員から「いいなぁ~。」と言う声が上がる中、奈緒は熱いものを必死に堪えながら沙耶にピースサインをして席に着いた。
「寺田さん。」
沙耶が呼ばれた。
「はい。」
篠崎と短いやり取りをした沙耶が席に戻ると、篠崎は「頼んだよ。」と沙耶に言い残し、ちらりと奈緒に目配せをして職場を後にした。
今までいた奈緒の立ち位置が沙耶のものなっていた。
「奈緒。」
「ん?」
沙耶が耳元でこっそりと囁いた。
「飲み会資金ゲット。」
「えっ?」
「よっしゃー! 皆さん今宵は飲み放題となりましたーっ。」
「やった!」
「さすが部長!」
沙耶はみんなから集めた会費を返金しながら明るい笑顔を振りまいている。
沙耶の明るさはこれからもみんなのやる気を引き出すだろうと奈緒は思った。
羨ましかった。
そして寂しかった。
自分がいなくても誰かがやってくれる、べつに篠崎が困るわけではないのだと奈緒は自分を納得させた。