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終止符.
第11章 うつろい
いつもの居酒屋でいつもよりにぎやかな笑い声が響く。

同じ職場で過ごして来た仲間達が盛り上がっているのは、沙耶と森下をからかっているからだった。

「いったいいつの間に?」

「えー私、森下さん狙ってたのにー。」

「ちくしょう、うまくやりやがって!」

次々と悪意の無い罵声を浴びながら、照れ笑いする森下と沙耶はお似合いの二人だった。

「なに言ってんのよ、奈緒が気になってたクセにー。」

「えっ? バレてた?」

「あはは、ばればれ。」

軽い酔いに舌も滑らかになった同僚たちの会話に笑いながら、奈緒は改めていい職場だったと思うのだった。

「これから告白してもいいかな?」

「今更だけど当たって砕けちまえ!」

調子のいい内藤に乗せられて、多田が奈緒に向かって右手を差し出した。

「ぼ、僕と一緒に同じ道を歩いてくれませんか?」

奈緒が笑いを堪えながら返事を返す。

「ご、ごめんなさい。」

「げ、撃沈…」

多田の言葉に全員が吹き出し明るい告白タイムが終わった。

「奈緒、飲み会には時々顔を出してね。」

千秋が言うと、

「ぜひ、ぜひそうして下さい。」

多田が口を挟む。

「多田さんヌキでやるからぜひ来てね。」

「了解。」

「あ、ひでぇー。」

沙耶のおかげで楽しいままの旅立ちになると思いながら、奈緒はみんなの中で笑っていた。


「あれ?」

多田の声にそれまで盛り上がっていた場が静まり、その視線を追って振り向いた奈緒の目に、篠崎が花束を持って近づいて来るのが見えた。

「あ、よかったー。」

沙耶がほっとしたように言った。

「えっ?」

奈緒が沙耶を見ると

「すぐにわかるよ。」

と言って頷いた。

篠崎が奈緒の側に来て花束を差し出した。

「これ、社長から立花さんに。」

「社長から…」

奈緒は立ち上がりぽかんとしていた。

「奈緒、部長は社長に頼まれていたんだって。さすが社長だよね。」

「へぇー、なんか感動するなぁ。」

「俺も。」

「社長らしいな…」

「これも預かってる。」

篠崎は奈緒に封筒を手渡した。

中には二つに折られたカードが入っていた。


『立花奈緒様

君を失うわが社の損失は大きいが、更なる活躍を期待して君を送り出そう

頑張りなさい

藤田俊之 』

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