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終止符.
第11章 うつろい
心に響く餞(はなむけ)の言葉だった。
一社員に対する社長の温かい気遣いに、奈緒は目頭が熱くなった。
「さあ、これを受け取って。私のものじゃないんだよ。」
篠崎は笑いながら花束を奈緒に差し出した。
「あ、はい、ありがとうございます。」
奈緒は一度お辞儀をしてから両手を伸ばし、花束を受け取った。
温かい拍手をしてくれる同僚達にも頭を下げた。
「それじゃあ私はこれで失礼するよ、みんなゆっくりと楽しんで。」
「ありがとうございます。」
「お言葉に甘えて。」
立ち上がろうとする部下達を手で制し
「あぁ、座ったままでいい。それじゃ。」
と言い残して出口へと向かった。
奈緒は「ちょっと行ってくる。」と沙耶に伝えて篠崎の後を追った。
店を出たところで追いついた奈緒は篠崎を呼び止めた。
「部長。」
「ん? どうした。」
「あの…社長のお見舞いに行く事はできないでしょうか? 私、どうしてもひと言お礼を言いたいんです。」
篠崎は奈緒の真剣な表情を見ながら少し考えて口を開いた。
「…君なら多分大丈夫じゃないかな?」
「あの、ご病状は?」
「…それについてはここでは話せないけど、今のところは心配ない。」
「そうですか。」
奈緒は少しほっとした。
「奈…立花さん、明日の午後、病院に来られるかな? 社長に面会できるように私が取り次いであげるよ。」
「お願いします。」
篠崎から病院名と場所を聞きメモをとる。
「それじゃあ、明日2時に。」
「よろしくお願いします。」
篠崎は頷いて奈緒に微笑み、背を向けて足早に去って行った。
──もう、『奈緒』とは呼ばないんですね。
奈緒は心の中で篠崎の背中に問い掛けた。
冷たい風が頬にあたる。
舞い上がった木の葉が地面に落ちて、くるくると円を描いていた。
風がやめば止まり、風が吹けば地面を転がる。
足元がおぼつかない自分のようだ。
「中に入らないの?」
驚いて振り向くと多田が店のドアから顔を出していた。
「あ、ごめんなさい、落ち葉に見とれてて…ふふっ。」
「そっか。……入る?」
「はい。」
奈緒は多田の前を通って中に入ろうとした。
「本気だったのか…」
「えっ?」
「いや、何でもない。」
奈緒は聞こえないふりをして席に戻った。
一社員に対する社長の温かい気遣いに、奈緒は目頭が熱くなった。
「さあ、これを受け取って。私のものじゃないんだよ。」
篠崎は笑いながら花束を奈緒に差し出した。
「あ、はい、ありがとうございます。」
奈緒は一度お辞儀をしてから両手を伸ばし、花束を受け取った。
温かい拍手をしてくれる同僚達にも頭を下げた。
「それじゃあ私はこれで失礼するよ、みんなゆっくりと楽しんで。」
「ありがとうございます。」
「お言葉に甘えて。」
立ち上がろうとする部下達を手で制し
「あぁ、座ったままでいい。それじゃ。」
と言い残して出口へと向かった。
奈緒は「ちょっと行ってくる。」と沙耶に伝えて篠崎の後を追った。
店を出たところで追いついた奈緒は篠崎を呼び止めた。
「部長。」
「ん? どうした。」
「あの…社長のお見舞いに行く事はできないでしょうか? 私、どうしてもひと言お礼を言いたいんです。」
篠崎は奈緒の真剣な表情を見ながら少し考えて口を開いた。
「…君なら多分大丈夫じゃないかな?」
「あの、ご病状は?」
「…それについてはここでは話せないけど、今のところは心配ない。」
「そうですか。」
奈緒は少しほっとした。
「奈…立花さん、明日の午後、病院に来られるかな? 社長に面会できるように私が取り次いであげるよ。」
「お願いします。」
篠崎から病院名と場所を聞きメモをとる。
「それじゃあ、明日2時に。」
「よろしくお願いします。」
篠崎は頷いて奈緒に微笑み、背を向けて足早に去って行った。
──もう、『奈緒』とは呼ばないんですね。
奈緒は心の中で篠崎の背中に問い掛けた。
冷たい風が頬にあたる。
舞い上がった木の葉が地面に落ちて、くるくると円を描いていた。
風がやめば止まり、風が吹けば地面を転がる。
足元がおぼつかない自分のようだ。
「中に入らないの?」
驚いて振り向くと多田が店のドアから顔を出していた。
「あ、ごめんなさい、落ち葉に見とれてて…ふふっ。」
「そっか。……入る?」
「はい。」
奈緒は多田の前を通って中に入ろうとした。
「本気だったのか…」
「えっ?」
「いや、何でもない。」
奈緒は聞こえないふりをして席に戻った。