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終止符.
第11章 うつろい
にぎやかな笑い声の中で沙耶が小声で話し掛けてきた。

「どうしたの?」

「社長に面会出来ないか聞いてみたの。」

「あぁ、そっか。どうだった?」

「明日、ご挨拶だけさせてもらえそう。」

「よかったねー、じゃあ社長の様子だけでも教えてもらえる?」

「連絡するわ。」

「了解。」

席に戻った多田はまた内藤にからかわれ、おどけて見せてはいたが、時々奈緒を気にしながらビールジョッキを口に運んだ。

奈緒は花束を持ったり、沙耶や千秋と並んだりしたところを写真に撮ってもらいながら華やかな笑顔を振りまいていた。

今さら多田に悟られるわけにはいかない。
とぼける自信はあったが多田の視線からは逃げたかった。

奈緒は不安を隠しながら笑っていた。

「では皆さん、電車の時間もあるし、明日は仕事が待ってます。そろそろお開きにしますよー。」

「はーい。」

「楽しかった、ありがとう。」

「お疲れさま。」

沙耶の呼びかけにみんなが帰り自宅を始めた。

「それでは奈緒から一言皆さんにご挨拶です。」

「えっ?」

「さあ、奈緒早く早く。」

沙耶に急き立てられ、奈緒は仕方なく立ち上がった。

「えーっと…」

みんなの視線が優しく奈緒を包む。

「今日はとても楽しかったです。…入社してからずっと一緒に働いてきた人も、途中から仲間になってくれた人も……皆さんのお陰でここまで何とかやって来られました。本当に感謝しています。」

沙耶の目には涙が光っていた。

「今日のこのチームワークがあれば、なんの心配もありません。あとは内藤さんの入力ミスが、時々みんなを慌てさせてくれるでしょう。」

「あははは。」

笑い声が上がった。

「気をつけます。」

内藤が頭をかいた。

「ふふっ…私はまた、べつの場所で、たぶん、またそろばん弾いてがんばります。皆さんお元気で。…本当にありがとうございました。」

頭を下げる奈緒の前に、沙耶が小さな手提げの紙袋を持って来た。

「これ、みんなから。」

「えっ?」

「受け取って。」

「…やだな、泣きそうだよ…ありがとう、みんな。」

「がんばっ…てね。」

沙耶がベソをかきながら言った。

「うん、まかせといて。」

拍手の中でプレゼントを受け取り、奈緒は何度もお辞儀をした。


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