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終止符.
第11章 うつろい
奈緒は黙って多田の後ろを歩いた。
「立花さん、それ俺が持つよ。」
振り向いた多田は奈緒が抱えていた花束をそっと受け取りながら言った。
「あ、ありがとうございます。」
「襲ったりしないから一緒に歩かない?」
笑いながら言われ
「あ、ごめんなさい。」
と答えて多田の左側を歩く。
「寒いから、あの喫茶店でいい?」
「そうですね。」
そこは奈緒達も時々立ち寄る喫茶店で、深夜まで営業しているので、飲んだ後に一息つくのには丁度良かった。
ガラスのはめ込まれた重い木製のドアを開けると、コーヒーの薫りが漂ってくる。
「いらっしゃいませ。奥にどうぞ。」
ウェイターに案内されて二人は窓際の一番奥に向かい合って座った。
「何にする?」
「私はホットを。」
「俺はジンジャーエール。」
「かしこまりました。」
奈緒は熱いおしぼりで手を温めた。
落ち着けずに窓の外に目を向ける。
「大丈夫? いつもと違う感じだけど。」
多田が話しかける。
「そうですか? 私、いつもと同じです。」
「そうかな? いつも隙の無い立花さんが今日は違って見えるよ。」
「えっ?」
奈緒は多田の顔をまじまじと見た。
いつもと違っているのは多田の方だった。
内藤や沙耶達とやり合っているおどけた表情はそこにはなく、落ち着いて奈緒を見据える強い眼差しがあった。
「あの、お話って…」
「お待たせしました。」
ウェイターがコーヒーとジンジャーエールを置いて立ち去るのを見送って、奈緒はもう一度聞いた。
「お話ってなんですか?」
多田はストローも使わずに奈緒を見つめたまま、ゆっくりと喉を潤してから口を開いた。
「立花さんは誰かと付き合っていると思ってたんだ。」
「……」
奈緒の喉がゴクリと唾を飲み込んだ。
「誰も寄せ付けないような所があったからね。」
「……」
指先が冷たくなり、胸の鼓動が早くなる。
「気のせいです。」
「誰の事も見ていなかっただろ?」
「……」
「いや、一人の男しか見ていなかったのかな。」
コーヒーカップを持つ手が震えてカチャカチャと音を立てた。
次に何を聞かされるのかが怖い。
「最近変わったなって思ってた。君が辞める事を知ってからね。」
「誰だって多少変わりますよ…辞める時は。」
「篠崎部長、だね。」
「立花さん、それ俺が持つよ。」
振り向いた多田は奈緒が抱えていた花束をそっと受け取りながら言った。
「あ、ありがとうございます。」
「襲ったりしないから一緒に歩かない?」
笑いながら言われ
「あ、ごめんなさい。」
と答えて多田の左側を歩く。
「寒いから、あの喫茶店でいい?」
「そうですね。」
そこは奈緒達も時々立ち寄る喫茶店で、深夜まで営業しているので、飲んだ後に一息つくのには丁度良かった。
ガラスのはめ込まれた重い木製のドアを開けると、コーヒーの薫りが漂ってくる。
「いらっしゃいませ。奥にどうぞ。」
ウェイターに案内されて二人は窓際の一番奥に向かい合って座った。
「何にする?」
「私はホットを。」
「俺はジンジャーエール。」
「かしこまりました。」
奈緒は熱いおしぼりで手を温めた。
落ち着けずに窓の外に目を向ける。
「大丈夫? いつもと違う感じだけど。」
多田が話しかける。
「そうですか? 私、いつもと同じです。」
「そうかな? いつも隙の無い立花さんが今日は違って見えるよ。」
「えっ?」
奈緒は多田の顔をまじまじと見た。
いつもと違っているのは多田の方だった。
内藤や沙耶達とやり合っているおどけた表情はそこにはなく、落ち着いて奈緒を見据える強い眼差しがあった。
「あの、お話って…」
「お待たせしました。」
ウェイターがコーヒーとジンジャーエールを置いて立ち去るのを見送って、奈緒はもう一度聞いた。
「お話ってなんですか?」
多田はストローも使わずに奈緒を見つめたまま、ゆっくりと喉を潤してから口を開いた。
「立花さんは誰かと付き合っていると思ってたんだ。」
「……」
奈緒の喉がゴクリと唾を飲み込んだ。
「誰も寄せ付けないような所があったからね。」
「……」
指先が冷たくなり、胸の鼓動が早くなる。
「気のせいです。」
「誰の事も見ていなかっただろ?」
「……」
「いや、一人の男しか見ていなかったのかな。」
コーヒーカップを持つ手が震えてカチャカチャと音を立てた。
次に何を聞かされるのかが怖い。
「最近変わったなって思ってた。君が辞める事を知ってからね。」
「誰だって多少変わりますよ…辞める時は。」
「篠崎部長、だね。」