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終止符.
第12章 秘密
待合室からエレベーターホールに続く廊下は、ちいさな中庭が見えるように硝子張りになっていて、芝生や木々が目を楽しませ、まるで大きな絵画を見ているかのように奈緒の気持ちをそっと癒した。


エレベーターを待ちながら、奈緒は篠崎に話しかけた。

「あの…あとでお話しがあるんですが、お時間取って頂けますか?」

「あぁ、構わないよ。この奥にある喫茶店でいいかな?」

「はい。ありがとうございます。」


エレベーターに乗り込み、篠崎が7階のボタンを押した。

二人きりの箱の中で、横に並んだ篠崎がぽつりと言った。

「社長は痩せておられる。」

「えっ?」

「胃の3分の2を切除したからね……胃ガンだったんだ。」

「まぁ…」

「手術は上手くいったから今のところは一安心だよ。3日後には退院して暫くは自宅療養だね。」

「そうだったんですか。」

はつらつとして豪快に笑う藤田の姿を思い出し胸が傷んだ。


「部長もいろいろと大変でしたね。」

ここ暫く落ち着かず、忙しそうにしていた篠崎を思い出した。

「いや、家族の事だからね、当然の事をしてるだけだよ。」

奈緒はその優しい眼差しを笑顔で受け止め

「誰にも邪魔はできませんね。」

と言った。

「すまない。」

奈緒は黙って頷いた。


こんな風に、もう元には戻れない事を何度も確かめながら、切なく騒ぎ出しそうな心を押し留めたい。


篠崎はそんな自分の事をわかっているのではないかと、奈緒は感じていた。


エレベーターが止まり、ドアが開いた。

「こっちだよ。」

「はい。」

篠崎の案内で、ナースステーションの前を通り、廊下を右に曲がる。両側の病室をいくつかの通り過ぎ、左手一番奥の部屋の前で篠崎が立ち止まった。

「ここだよ。」

ドア横のプレートの名前を確認して奈緒はコクリと頷いた。

篠崎がドアをノックすると「どうぞ。」と声がする。


「失礼します。社長、立花さんです。」

引き戸を開き、篠崎が声をかける。

「あぁ、入ってもらいなさい、待っていたんだ。」

「どうぞ。」

奈緒は篠崎に会釈をしながら中に入った。

部屋は個室になっていて、シャワー室やトイレが完備され、そこを過ぎると閉じられたカーテンの向こうにベッドが置かれているのがわかる。

「失礼します。」

篠崎が静かにカーテンを開けた。


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