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終止符.
第12章 秘密
「………」

奈緒は両手を握りしめるばかりで、頭の中は混乱していた。

「私はその事を妻に聞いて初めて知ったんだよ。……彼女は16才だった。母親を亡くしたのは13才の時だ。」


幸せなお嬢様だと思っていた。


「度々社長宅を訪ねる私に彼女は少しづづ心を開いてくれた。……母親が亡くなったのは自分のせいだと言っていた。……父親も娘も自分を責めて苦しんでいた。」


あまりにも大きすぎる代償……。


「社長は父親から会社を任されてすぐだったし、まだ中学生だった娘を支えなければ…、娘まで亡くすわけにはいかなかったんだ。そして…彼と母親は置き去りにされた。」


藤田の豪快な笑顔とは、あまりにもかけ離れた過去だった。

なにひとつ、救いのない結末……。


「純の母親は、もしかしたらその事を…、社長の奥様の事を…」

「知っていたかもしれないね。連絡が取れなくなってしまったらしい。」


純の母は、罪の意識にさいなまれたに違いない。

幸せに育てるつもりの我が子が、すべての原因だったとしたら…。

自分が原因だったとしたら…。




あなたの苦しみが増してゆく。


奈緒はハンカチで涙を拭った。


「純は、父親の名前を知っていました。 としゆきって母親が口にするのを聞いていたんです。」


「そうか…」


「純は悪くない。なにひとつ悪くないわ。」

「あぁ。」

「社長はどうしたいんですか?」

「今回の病気で、死を覚悟して初めて、罪滅ぼしをするには今しかないと考えたんだろう。心情的には何でもしてあげたいだろうね。 ただ、その権利があるだろうか…。 」

「ないですよ。あるわけないじゃないですか。」

「立花さん。」

「一人だけ、罪の意識から逃れようとするなんて許せない。」

奈緒はまた怒りを露にした。

「奈緒…」

篠崎が名前を読んだ。


「私も同じだよ。」

「っ……」

「妻を裏切った事を一生背負っていかなければならない。」

「………」

奈緒は返す言葉がなかった。

どんな言い訳も理由にはならない。

誰のせいにもできない。

ただ二人の世界で燃え上がっていただけ。

火の粉が周りに飛び散らないうちに、上手く消し止めただけ。


奈緒は改めて自分のしてきた事の無責任さを思い知った。


自分に酔った、ただのエゴイストだった。

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