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終止符.
第13章 ひとり
天井をぼんやりと見つめながら、自分の声に問いかける。


今のは何?


「純」って…


ふふっ、偶然よ。


奈緒はまだ蠢いている場所にそっと触れ、純の唇を思い出した。


ここにキスをした

唇でここを塞いだ


奈緒は花弁と蕾を啄む純のキスを思い出し、目を閉じた。


〈奈緒さんに早く会いたいです。〉


私も、私もよ純。


一人の寂しさと、満たされない性への欲求が、一時だけのあり得ない感情を刺激しているだけだと奈緒は思った。

そして再び甘い声で純の名を呼び、身体の奥が熱く疼いて欲しがる時には、切なく喘ぐその美しい顔を鮮明に思い浮かべた。

そばにいない相手と瞼の奥で愛し合い、聞こえない声に酔いしれる。


「奈緒さん、もっと感じて…」

「奈緒さんのここにキスしたい。」

「僕、慰めるのは得意だよ…」

「あぁっ…奈緒さん…ハァハァ…僕、もう…」




奈緒は夢の中でも純を欲しがり、淫らな形でもつれ合った。

後ろから攻められて腰を震わせたり、純を頬ばりながら自分の蜜汁を強く吸わせた。

身体の疼きで目が覚めると、いつも下着が濡れていた。

奈緒に快楽を教えた篠崎が憎くなり、篠崎に見せつけながら純と交わる事を夢想して自分を慰めた。

高い波が引いてゆくと、必ず小さな罪悪感が胸に残る。

はしたない声を上げながら男に突かれ、身体を歓喜に震わせる隣の女は、罪悪感などないだろう。

奈緒は温もりが欲しかった。


純の事ばかり気に掛けていたから、ベッドでも純を思い浮かべてしまう。

想いを寄せる人がいないから、遠くにいる純を夢想している。

一人の身体が寂しいから、ただ彼を利用しているだけ。


奈緒はそう自分を納得させた。

そんな行為は密かな慰めであって、誰にもばれたりしない事だとわかっていたが、奈緒は自分の心が、ずっと会っていない純に勝手に傾いていきそうで、それを押し留めておきたかった。


彼を放っておく女がいるわけがない。


奈緒は姉のように振る舞いたかった。

帰国する純を待ち受けている真実から守ってやりたかった。




外は寒さと暖かさを繰り返し、純が帰ってくる春に近づいていた。



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