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終止符.
第13章 ひとり
『わかりました。あの、部長…』
奈緒は沙耶のメールを思い出した。
『ん? どうした?』
篠崎の優しい言葉が懐かしい。
『副社長になられたんですね。』
『あぁ。4月からね。』
『おめでとうございます。』
『ありがとう。社長の補佐役だよ。』
『もう、経理部には部長はいらっしゃらないんですね。』
『そうだね。』
奈緒は職場の風景や仲間達、その中で篠崎に恋い焦がれていた自分を思い出し、切なさに胸が熱くなった。
──貴方が大好きでした。
奈緒は心の中で話しかけた。
『奈緒。』
短い沈黙を破って篠崎が名前を呼んだ。
『えっ?』
『君はもう歩き出してる。』
『………』
『笑っていて欲しい。』
『…はい。』
奈緒は篠崎に心を読まれたような気がした。
今は振り向かずに前を向こう。
奈緒は『失礼します。』と言って電話を切った。
移り行く日々は色を変えて、今を過去に追いやってくれる。
傷付いた事も色褪せて、新しい今に変わってゆく。
歩き出してる。
奈緒は思った。
けれども、色褪せた筈の過去が鮮明に蘇り、今を生きる誰かを容赦なく傷付けるとしたら…。
奈緒は放っておこうと思っていた純の事を、やはり守りたかった。
明るい彼の笑顔が一瞬でも消えてしまうのはいやだった。
────────
次の日、奈緒は知佳に助けてもらいながら仕事をこなしていたが、午後7時を回ってしまった。
もうみんなが集まっている時間だ。
知佳と別れ、急いで駅に向かいながら、
『ごめんなさい。30分後には着けそうです。』
と沙耶にメールを送った。
『了解了解。
急がなくてもお酒は逃げない。純も逃げない。』
すぐに返信が来た。
奈緒はどんな顔をして純に逢えばいいのかわからなかった。
目一杯の笑顔で迎えてくれる純につられて、笑顔を返せばいい。
みんなの中で笑っていれば大丈夫。
電車の吊革に掴まりながら、奈緒は頭の中で、自分が居酒屋の扉を開けてからの行動を繰り返し予習した。
先ずは笑い掛けよう。
「久しぶりね、元気だった?」って言おう。
それからビールで純と乾杯をして、アメリカと日本の違いを聞いて、みんなと笑い合って……
大丈夫、上手くいく。
奈緒は電車の窓に映る自分を見つめ、よし、と大きく頷いた。
奈緒は沙耶のメールを思い出した。
『ん? どうした?』
篠崎の優しい言葉が懐かしい。
『副社長になられたんですね。』
『あぁ。4月からね。』
『おめでとうございます。』
『ありがとう。社長の補佐役だよ。』
『もう、経理部には部長はいらっしゃらないんですね。』
『そうだね。』
奈緒は職場の風景や仲間達、その中で篠崎に恋い焦がれていた自分を思い出し、切なさに胸が熱くなった。
──貴方が大好きでした。
奈緒は心の中で話しかけた。
『奈緒。』
短い沈黙を破って篠崎が名前を呼んだ。
『えっ?』
『君はもう歩き出してる。』
『………』
『笑っていて欲しい。』
『…はい。』
奈緒は篠崎に心を読まれたような気がした。
今は振り向かずに前を向こう。
奈緒は『失礼します。』と言って電話を切った。
移り行く日々は色を変えて、今を過去に追いやってくれる。
傷付いた事も色褪せて、新しい今に変わってゆく。
歩き出してる。
奈緒は思った。
けれども、色褪せた筈の過去が鮮明に蘇り、今を生きる誰かを容赦なく傷付けるとしたら…。
奈緒は放っておこうと思っていた純の事を、やはり守りたかった。
明るい彼の笑顔が一瞬でも消えてしまうのはいやだった。
────────
次の日、奈緒は知佳に助けてもらいながら仕事をこなしていたが、午後7時を回ってしまった。
もうみんなが集まっている時間だ。
知佳と別れ、急いで駅に向かいながら、
『ごめんなさい。30分後には着けそうです。』
と沙耶にメールを送った。
『了解了解。
急がなくてもお酒は逃げない。純も逃げない。』
すぐに返信が来た。
奈緒はどんな顔をして純に逢えばいいのかわからなかった。
目一杯の笑顔で迎えてくれる純につられて、笑顔を返せばいい。
みんなの中で笑っていれば大丈夫。
電車の吊革に掴まりながら、奈緒は頭の中で、自分が居酒屋の扉を開けてからの行動を繰り返し予習した。
先ずは笑い掛けよう。
「久しぶりね、元気だった?」って言おう。
それからビールで純と乾杯をして、アメリカと日本の違いを聞いて、みんなと笑い合って……
大丈夫、上手くいく。
奈緒は電車の窓に映る自分を見つめ、よし、と大きく頷いた。