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終止符.
第13章 ひとり
電車を降りる人の流れに乗って一息つきながら、奈緒はふと自分が滑稽に思えた。


別に今までと何も変わらないじゃない。

純の身の上を少し気に掛けているだけじゃない。


奈緒は気を取り直し、わけのわからない緊張を脱ぎ捨てようと改札へ向かう階段を駆け上がった。


このまま駆けてって勢いでお店の扉を開けてしまおう。


改札口を抜けた正面には、駅周辺の案内図を背に人待ち顔の数人のグループやカップル、スーツ姿のサラリーマンが立っていた。

奈緒はそれを横目でちらりと見ながらその前を通り過ぎ、〈西口〉の表示を確認して左方向に駆け出した。


「………?」


少し走って奈緒はふと足を止めた。


なぜ足を止めたのか自分でもわからない。


今何か……


奈緒は真っ直ぐ前を向いたまま動けなかった。


無意識のままで、それから、落とした物に気がついた時のように、奈緒は振り向いた。


「………」


駅の案内図の前に立っていたスーツ姿の男性がゆっくりとこちらに近づいて来る。


濃紺のスーツ、紺を基調にした青とグレーのストライプのネクタイ。外灯に照らし出されたその人は、栗色を帯びた柔らかそうな髪とくっきりとした二重、頬に照れたような笑顔を薄く滲ませ、動けない奈緒の目の前で立ち止まった。


「………」


純…?


額に掛かった前髪から少し覗く整った眉、そして黙って奈緒を見下ろす眼差し。


それは奈緒を混乱させた。

すがり付くように奈緒を真っ直ぐに見つめていた無邪気な明るい瞳はそこにはなかった。


「奈緒さん。」


純の瞳は憂いを含み、奈緒を優しく包み込むような落ち着きを感じさせた。


「………」


奈緒の予習は無駄に終わり、純を前にして言葉を無くしていた。

身体と思考は固まっているのに、胸の鼓動は止まらない。


「あと30分で奈緒さんが着くって沙耶さんに教えもらったから…僕、迎えに来ちゃったんです。」


純が頭を掻きながら話す。


「背、伸びた?」


奈緒はやっと口を動かした。


「えっ?…あ、さあ、どうかな。」


純は首を傾げながらまた頭を掻いた。


「行こっか。」


奈緒はくるりと純に背を向け歩き出した。


落ち着いて
落ち着いて

ただの純じゃないの


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