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終止符.
第13章 ひとり
「あ、奈緒さんちょっ…」

急に歩き出した奈緒に驚いた純はすぐに追い付き、足早に歩く奈緒に話し掛ける。


「奈緒さん、もっとゆっくり歩きませんか?」

「だって遅刻してるのよ。」


奈緒は純の顔も見ずにずんずん歩く。

「奈緒さんっ…」

純は奈緒の右肘の辺りを掴んで正面に立ちはだかった。

「なによ…」

「ちょっと電話させて下さい。」

純は奈緒を軽く掴んだまま、空いた手でポケットから携帯を取り出しどこかへ掛け始めた。


『もしもし、純です。……はい、今捕まえました。あ、いえ、逢えました。…はい、ちょっと待ってください、奈緒さんに代わります。』


奈緒は道に飛び出さないよう親に腕を掴まれた子供のようだった。


「奈緒さん、沙耶さんが代わってって…」


奈緒は手渡された純の携帯を耳に当てた。


『もしもし沙耶、遅れてごめんなさい。もうすぐ着くわ。』

『あ、奈緒、お疲れさま~。純どう? いい男になってるでしょ~。あはは。』


奈緒は腕を掴んでいる純の手が気になって落ち着かず、そしてなぜか振りほどく事も出来ずにいた。


『……とにかくすぐ行くわ。』

『あぁ、あのさ、ちょっと純の話を聞いてあげてくれない?』

『えっ?』

『こっちはね、奈緒を待ってる間にひと通り聞かされちゃって、今は千秋の結婚の事で盛り上がってんの。』

『でも…。』

『だからね、その話をゆっくり聞いてからこっちにおいでよ、ね。二人が来たらまた乾杯するからさ、急がなくていいわよ。じゃ、あとで。』

『ちょっと沙耶…』


沙耶は勝手にプツッと電話を切った。


「切れたわ。」

奈緒が純に携帯を返すと、掴まれた腕がやっと自由になりほっと一息つく。

携帯をポケットにしまうと純が言った。

「少し痩せたんですね。」

「えっ?」

奈緒が純を見上げた。

「あの、腕が細くなったなと思って…」

奈緒は腕に残る熱さに焦り、そのうえ純に抱かれた夜を思い出して恥ずかしさに俯いた。

「…そうかしら…、あなたがデカくなったのよ。」

「あはは。そうかな。」

「そうよ。」

口を尖らせてを見上げる奈緒の顔を、優しい笑顔で純が受け入れる。

奈緒はハッとしてまた下を向いた。


「……駅に来る前、沙耶さんに、二人で話すようにって言われたんです。」


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