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終止符.
第13章 ひとり
「………」

奈緒はもう、純から目を離さなかった。

「彼は…、ジェフは結婚すると決めた時、自分がいつか親になるという不安から逃れる事が出来なくなって、…自分の子供を愛する事ができるのか不安になって……養子にしてくれた両親や、自分がいた施設に問い合わせたりして必死に父親を探したそうです。」

「………」

「母親が亡くなってすぐに父親は、まだ乳呑み子だったジェフを施設に預けた……生活苦だったようです。……彼は結婚してからも父親を捜し続けて……でも、やっと行方がわかった時、父親はもう、亡くなっていたんです。」


純は両手を膝につき、少し前屈みになって俯いていた。

「………」


長いまつ毛が下を向き、唇は硬く結ばれていた。

悲しい横顔だった。


「奈緒さん、彼を救ったのはなんだったと思いますか。」


純は少し微笑んで奈緒を見つめた。

「わからない…なんだったの?」

「父親の飲み仲間が言ったそうです。ジェフの誕生日が来る度に、我が子の名前と年齢を言って、おめでとうって乾杯してたって…」

「………」

奈緒は純を見つめながら優しく頷いた。


「彼は…ジェフは生まれて来てよかったんだ……離れていても愛されてた……それを信じる事ができてからやっと、子供を持とうと思えたって……でも僕は…この僕は……」


純は微笑みながら、悲しい目で奈緒に胸の内を訴えた。

「あなたもきっと愛されてるわ…」

純を抱きしめたかった。
その髪をそっと撫でて慰めたい……。


「生きているかどうもわからないんだ……」

奈緒はさりげなく聞いてみた。

「純……、もしも生きていたら…逢いたい?」

奈緒の言葉に純は首を横に振った。


「どうして…」

「邪魔はしたくない。」

「邪魔なんかじゃないわ、ちっとも邪魔じゃないのよ。」

「どんな人なのか、…遠くからちょっと見てみたいな。」

「純…」

「ふふっ。」

切なく笑う純の横顔は叶わない想いを既にあきらめているかのようだった。

日本を離れ、海外に身を置いて、ちっぽけな自分を確かめようとした筈の純は、そこで本当の自分を見つめ直す事になったんだと奈緒は思った。


純が変わった理由がわかった気がした。


止まっていた歯車を、回してもいいのだろうか。


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