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終止符.
第13章 ひとり
奈緒は冷静に話し掛けた。


「純、あなたのお母さんの名前は?」

「えっ?」

「たしか、父親らしき人の名前は聞いたけど、お母さんの名前を聞いていなかったと思って。」

「えっ? 父の名を言いましたっけ?」

「えぇ、聞いたわ、俊之って…」

「あぁ、あの日…。」

それは純に抱かれた日だった。

純の瞳が少し熱を帯びた。

「あんな時に僕…変な事を聞かせてすみませんでした。」

「いいの。」

奈緒は眼を反らせて俯いた。

「僕の母は、加代子。谷口加代子です。」

「谷口加代子さん。」


あぁ…
間違いない

藤田俊之は、純の父親だ。


「奈緒さん。」

「えっ?」

純の眼差しが奈緒を捉えた。

「篠崎部長……彼とはどうなりましたか?」

「…終わったわ。」

奈緒の鼓動が速くなる。

「よかった…、今は?」

「えっ?」

「誰か素敵な人、いるんですか?」

純の静かな問いかけは、かえって奈緒を慌てさせ、バッグを押さえていた両手は急に冷たくなって力が込められた。

「あ、あなたはどうしてそう…、…久しぶりに会って今、たった今大事な話を聞かせてくれたばかりなのに、…どうして急に私の事なんて…」

純の手が奈緒の手にそっと置かれた。

「もしいないのなら…」

「純っ。」

「…はい。」

奈緒の肩は震えていた。
眼は純を睨み付けていた。


頭がまた混乱する。後で突きとめようと思っていた答えを今、純がぐちゃぐちゃにしようとしている。


「手を離して。」

「奈緒さん。」

「純、手を…」

「僕のそばにいて…」

息が止まった。

純の温かい大きな手の中で、奈緒の両手は小さく震えていた。

睨み付けていた瞳は力を失い、真っ直ぐに伝わってくる純の熱さに負けて焦りと戸惑いの色に変わる。

「僕を待っていて…、ちゃんと大人になりますから…」

離れようとする奈緒の手を純が握りしめた。


「このスーツ、就活の為に買ったんです。」

「よく似合ってる、素敵過ぎて誰かわからなかったわ。」

奈緒は俯いたままで小さく応えた。

「待っていて下さい。 僕、奈緒さんとつり合う男になりますから。」

「やめて。な、何を言っているの? さぁもう行きましょう、 みんな待ってるわ。」


勢いよく立ち上がった奈緒を純がふわりと抱きしめた。


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