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終止符.
第15章 痛み
「純さん…。 とても辛い思いをさせてしまって…、私、一刻も早くあなたとお話をしなければと、無理を言ってしまいました。……ごめんなさい。」

「いえ、僕はもう、自分の事が分かっただけで…」

二人は俯いたままで話した。


「純さん。」

「純で、いいです。」

「父は、そう呼びましたか?」

「…はい。」


愛子は頷いた。


「純…」

「はい。」

「もっと近くに寄ってくれませんか?」


愛子はそう言い、純の方に身体の向きを変えた。

「はい。」


純は戸惑いながら、愛子の方に身体を向けると隣り合った二人の膝が触れ合った。


「ごめんなさい、少しだけ…」


愛子はそう言うと両手を伸ばして純の肩に触れた。

その手はゆっくりと顔の方へと動き、純の顎に触れ、唇、頬、鼻、目の周り、額へと移っていった。

純は愛子を優しく見つめた。


「あぁ……父の若い頃に似ているわ…」


愛子はそう言って目を閉じたまま微笑んだ。


笑顔がよく似た二人……


奈緒は目頭が熱くなった。


「ごめんなさいね、ありがとう。」

「いいえ…」


純は落ち着いたようだった。


「純、見ての通り私は生まれた時から目が見えなくて、…母はその事をまるで自分の責任のように感じていたんです。」

「………」

「母にとっては、藤田の家を継ぐものは、できれば男の子がよかった。…けれども私は女の子で、その上目が不自由だった。……母の落胆は大変なものだったと思います。」


愛子は静かに、そして淡々と話した。

二人は膝を少しだけ触れ合わせたまま、愛子は純の胸元に顔を向け、純は愛子の閉じられた目を見つめていた。


「父は、母を責めた事など一度もありませんでした。…でもプライドの高い母は、返ってそれを疑わしく感じ、哀(あわ)れんでいると思い込んでしまった。……私を連れて、何度も家を出ようとしたようです。」

「………」

「その頃父は、お祖父様から会社を引き継ぐ準備に入っていましたし、ほとほと疲れ切ってしまっていたと思います。…そんな時にあなたのお母様と知り合った。」

「………」

「父にとっては唯一、安らげる場所だったと思います。」


純が少し俯いた。


「父は十分に気をつけてあなたのお母様との関係を続けていた筈です。…でも何故か母は気付いてしまった。」


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