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終止符.
第15章 痛み
「父も母も私を愛してくれていました…その二人がなぜ言い争いをしているのか、子供だった私には理解出来ませんでした。……ただ怖くて、部屋で震えていました。」


純は唇を少し噛み、真剣な顔で俯いていた。


「父の行動の一つ一つに疑いを抱くようになった母は、怒りと嫉妬で家中の物を壊すようになり、手に負えなくなった父は段々と家から遠退いていきました。」

「僕の母の所に…」

「えぇ、二人は愛し合っていたと思います。」

「愛子さんは…」


「私は曽根さんという、近くに住む家政婦さんに、生活上の事をいろいろと手伝って頂いていましたので、その事で困る事はありませんでした。」


…あぁ、あの夜。
篠崎が電話で妻の事をお願いしていた相手だ…



「純…、あなたは自分が生まれた事で、私の母が亡くなったと思っているのかも知れないけれど、それは違います。」

「どうしてですか? 結局は僕が生まれた事によって…」

「いいえ。」


愛子は純の言葉を強く否定した。


「母は弱い人でした。……プライドばかり高く、心は脆(もろ)かった。 けれども父を愛していました。」


愛子の声に少し熱がこもった。


「あの夜、7月30日、父は母に別れを告げたんです…。 おそらく、あなたの事を母は知らなかったと思います。」


「でも…」

「母はこう言ったんです。…あの人、もうきっと帰って来ない…、いいえ、すぐに取り返してみせる。…愛子、あなたのせいよ、あなたのせいよ、あなたがそんな風に生まれてこなければ、あなたのお父様は出て行ったりはしなかったのに……。それが母の最後の言葉でした。」

「そんな…」


純は愛子の手の上にそっと手を重ねた。

奈緒は手で口を覆って声を堪えた。
涙が溢れた。


「母の言ったとおり、父は帰って来ました。母が死んでしまった家に。父は母の最後の言葉を今でも知りません…。それ以上父に心配させたくはなかった。……でも、堪えきれずに、時々家を訪ねてくれていた篠崎には打ち明けました。彼の優しさは、傷付いた私の心を、少しづつ癒してくれました。」



私が入り込む隙なんて、どこにもなかった…



「純…」


重ねた純の手に、愛子はもう片方の手を置いた。


「はい。」

「決して、あなたに罪はないんです。…全ての原因は私なんですから。」

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