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終止符.
第1章 隠し事
ため息混じりに沙耶が言う。
「あぁ、憧れの篠崎部長も素敵だけど、結婚してるし。若者でも狙うかな。ふふ…」
「学生とか?」
「あはは。生活力は欲しいよね。」
奈緒は二人の会話に微笑みながら、冷えたコーヒーを飲み干した。
「そろそろ帰らなくちゃ、お先に失礼するわ。」
「 妹さんによろしくね。」
「気をつけて。」
奈緒は自分の食事代をテーブルに置いて立ち上がり、隣の席に会釈をし、沙耶と千秋に手を振って店を出た。
奈緒を見つめる純の視線は完全に無視された。
「部長…。」
携帯を取り出し、『お待ちしています。』と返信する。
時間を確かめながら夜の街を歩く。
久しぶりに二人きりで逢える。
電車に乗り、一度乗り換えて五つ目の最寄り駅で降りると、コンビニで缶ビールを買い込んだ。
足取りが軽い。
胸が弾む。
誰にも打ち明けられない秘密。
女子社員の憧れの的である経理部長の篠崎と奈緒は、深い仲になって2年が過ぎていた。
それは、誰にも知られてはならない二人だけの隠し事。
奈緒は自宅アパートを目指して歩きながら、あの頃の事を思い出していた。
ーーーーーー
大学生の時から付き合い始め、将来は結婚しようと誓い合っていた中沢真二とは、就職後、遠距離恋愛を余儀無くされた。
それでもお互いの仕事と休日を懸命に合わせ、逢う度に繋がりを深め合った。
けれども時が経つにつれ、お互いの仕事が忙しくなり、真二は生き甲斐を感じ始め、奈緒は疲れてしまっていた。
29才になり結婚を意識しはじめた奈緒は、自分から切り出そうと、真二の休日に合わせて仕事を休んだ。
驚かせようと逢いに行ったアパートの前で、真二が若い女と親しげに笑い合い、一緒に車に乗り込むのを見た。
奈緒は車の前に立ち尽くし、ひきつった顔で降りて来た真二の頬に平手打ちをくらわせた。
「今日までの私の時間を返して!」
「奈緒、ごめん。」
「消えてあげるわ。」
「奈緒…」
女の前で未練たらしく怒りをぶちまけるのはプライドが許さなかった。
身体を引きずるようにして必死に家へ戻って来た。
部屋に入ってから声を上げて泣いた。
自分の信じてきたものは、自分が勝手に作り上げていた妄想に過ぎなかった。
愚かな自分。
みっともない。
情けない。
こんな自分を脱ぎ捨てたい。
「あぁ、憧れの篠崎部長も素敵だけど、結婚してるし。若者でも狙うかな。ふふ…」
「学生とか?」
「あはは。生活力は欲しいよね。」
奈緒は二人の会話に微笑みながら、冷えたコーヒーを飲み干した。
「そろそろ帰らなくちゃ、お先に失礼するわ。」
「 妹さんによろしくね。」
「気をつけて。」
奈緒は自分の食事代をテーブルに置いて立ち上がり、隣の席に会釈をし、沙耶と千秋に手を振って店を出た。
奈緒を見つめる純の視線は完全に無視された。
「部長…。」
携帯を取り出し、『お待ちしています。』と返信する。
時間を確かめながら夜の街を歩く。
久しぶりに二人きりで逢える。
電車に乗り、一度乗り換えて五つ目の最寄り駅で降りると、コンビニで缶ビールを買い込んだ。
足取りが軽い。
胸が弾む。
誰にも打ち明けられない秘密。
女子社員の憧れの的である経理部長の篠崎と奈緒は、深い仲になって2年が過ぎていた。
それは、誰にも知られてはならない二人だけの隠し事。
奈緒は自宅アパートを目指して歩きながら、あの頃の事を思い出していた。
ーーーーーー
大学生の時から付き合い始め、将来は結婚しようと誓い合っていた中沢真二とは、就職後、遠距離恋愛を余儀無くされた。
それでもお互いの仕事と休日を懸命に合わせ、逢う度に繋がりを深め合った。
けれども時が経つにつれ、お互いの仕事が忙しくなり、真二は生き甲斐を感じ始め、奈緒は疲れてしまっていた。
29才になり結婚を意識しはじめた奈緒は、自分から切り出そうと、真二の休日に合わせて仕事を休んだ。
驚かせようと逢いに行ったアパートの前で、真二が若い女と親しげに笑い合い、一緒に車に乗り込むのを見た。
奈緒は車の前に立ち尽くし、ひきつった顔で降りて来た真二の頬に平手打ちをくらわせた。
「今日までの私の時間を返して!」
「奈緒、ごめん。」
「消えてあげるわ。」
「奈緒…」
女の前で未練たらしく怒りをぶちまけるのはプライドが許さなかった。
身体を引きずるようにして必死に家へ戻って来た。
部屋に入ってから声を上げて泣いた。
自分の信じてきたものは、自分が勝手に作り上げていた妄想に過ぎなかった。
愚かな自分。
みっともない。
情けない。
こんな自分を脱ぎ捨てたい。