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終止符.
第1章 隠し事
梅雨時の雨が、夜の街を濡らしてゆく。

雨の匂いがする。

自宅アパートの階段を上がり、三つ並んだドアの一番左側の鍵を開ける。

「部長、雨に濡れないかしら?」

時計を見ながら缶ビールを冷蔵庫に詰め込み、奈緒はシャワーを浴びた。

篠崎が出張に行って、逢えない日が続いていた。

きっといつものように私を抱いてから、自宅に戻るのだろう。

結婚してから5年間、子供が出来ないという篠崎の家庭の冷たさを思い、せめてここに訪ねて来る時には、暖かく迎え入れ、熱く燃え上がり、そして安らぎを感じて欲しかった。

間違いのないようにピルを飲むことも忘れなかった。

彼の全てを、自分だけに注いで欲しい。

奈緒は見た事もない篠崎の妻にも、優越感を感じていた。

あなたの夫は、私のもの。
彼が愛しているのは私。

バスルームから出て髪を乾かし終えた頃、時間通りにドアのチャイムが鳴った。


鍵を開けて、ドアを開く。


「ただいま。」

「お帰りなさい。」

篠崎はドアの外に傘を立て掛け、中に入った。


「奈緒、変わりはないか?」

「はい。寂しかっただけです。」

篠崎は濡れた旅行カバンを玄関に置き、奈緒を優しく抱き寄せた。

彼の匂いが好き。
私をすっぽりと包み込むたくましい身体が愛しい。

「お帰りなさい。」

上着を受け取り、狭いリビングに通す。

二人掛けのソファーに深く腰かけ、ネクタイを緩める篠崎を見つめながら、冷えたビールをグラスに注いだ。

「セクシーだ。」

「えっ?」

「化粧をしていない君は艶っぽい。」

グラスのビールを喉に流し込みながら、篠崎は奈緒を見つめた。
奈緒はそれだけで身体が火照りだす。

軽いウェーブのかかった髪、熱いものを秘めた強い眼差し、すっと延びた鼻筋、引き締まった口元。

彼なら将来社長の椅子に座る事は間違いないだろう。


「奈緒、君は辛くないのか。」

「またそのお話しですか?」

「君は私なんかより…」

「心配なさらなくても、ご迷惑はお掛けしません。」

「………」

「愛してくださるのなら。」

「奈緒。」

奈緒は篠崎のネクタイを外し、Yシャツのボタンを外した。

彼の膝に跨がって向かい合い耳元に囁いた。

「いつでも、私をお好きなようになさってください、部長…」


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