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終止符.
第8章 転機
「じゃあ、おにぎり。」

「だ~め。」

「ちぇっ…」

「あ、ねぇ、その唐揚げいっこ…あ…」

「もうな~い。食べちゃった。」

「純のいじわる。」

「奈緒さんのケチ。」

「ぷっ、あははは…」

「あははは…」

明るい笑い声が公園に響く。

「あはは。奈緒さん。」

「何よ。」

「笑っててください。」

「えっ?」

「笑ってる方がいい。」

「……」

「あー、お腹いっぱいで眠くなった。」

「ち、ちょっと、純。」

純はベンチに寝そべって奈緒の膝に頭を乗せた。
手の甲で目を隠す。

「涼しくて気持ちいい。」

「……」

「昨日は寂しかったな。」

「……」

「眠れないから、奈緒さんに貰ったパズルをやってて、完成させたら朝になってました。」

「純…」

「後で見せてあげます。ちょっと、眠りたい……」

純の寝息が聞こえる。

明るい陽射しの下で、歩ける二人だった。

篠崎だけが、そう出来ない関係だった。

家族と明るい空の下を歩き、喜びを分かち合い、女とはホテルで過ごす。

それだけの関係に、嘘が積み重ねられ、秘密は増え続ける。

いつまで流されるつもりだろうか。


愛されてさえいれば…


その愛は、わずかな時間で身体を確かめ合い、出口のない甘い官能に酔いしれるだけ?

満足していられるのはいつまで…

誰かに暴かれる前に、終わりにしなければ。

安心しきって眠る純の髪を撫でながら、奈緒はやっと終止符が打てるような気がした。


「奈緒さん。」

「えっ?」

純が起き上がった。

「僕、ちょっと旅に出ます。」

「どこに行くの?」

「前から計画していたんです。大学ともうまく調整できそうなので……語学留学でアメリカに行ってきます。」

「そうなの?」

「半年間がんばって、今よりきちんと英語を身に付けてきます。」

「就職の為?」

「それもあります。」

「他には?」

「…自分を確かめたい。」

「確かめる?」

「どれだけちっぽけな存在なのかを。」

「純…」

「ちっぽけな自分の生い立ちなんて大した事ないって実感したい、のかな、ハハ…」

「純…」

「来月立つんです」


「アパートはどうするの?」

「思い切って引き払おうと思います。」

「……」

「僕がいないと寂しくなるでしょう?」

「そうかもしれないわ。」

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